納めるつもりだ、暫らくの辛抱だよ」
伯父はひとりで力を入れて嬉しがっているようでしたが、
「その、お前を暫らく預けておこうとわしが考え当てたのは、なんの、手もないこと、ついこの先のお陣屋じゃ。植田丹後守様とて受領《ずりょう》まである歴々の御社家、あの御主人はなかなか豪《えら》いお方で、奥様も親切なお方、あのお邸へお願い申しておけば大盤石《だいばんじゃく》。それでわしは今、御陣屋へお願いに上ったところ、御先生も奥様も早速《さっそく》御承知じゃ。御陣屋の後立《うしろだ》て、丹後守様のお眼の光るところには、この界隈《かいわい》で草木も靡《なび》く、あんな馬鹿息子の指さしもなることではない」
お豊はこれを聞いて、かの二本杉であった机竜之助が、同じくその植田丹後守の邸にいるということを思い出して、その面影《おもかげ》がここに浮んで来ました。
十
今宵《こよい》は三輪大明神に「一夜酒《ひとよざけ》の祭」というのがあります。
丹後守の家では二三の人が残ったきりで、あとは皆、昼からの引続いての神楽《かぐら》と、今年は蛍《ほたる》を集めて来て階段の下から放つという催しを見に
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