ございますかい、お地蔵様へ御参詣《ごさんけい》で」
「左様、今お地蔵様へ参詣して帰りがけさ」
「今年は、どうですか、お地蔵様もこの分では狂言がお流れになりそうで」
「狂言とは何だね」
「ナニその、壬生狂言と申しましてな、近いうち面揃《めんぞろ》えがござりまする。当年は、この通り乱世でございますから、どうなることでございますか」
「なるほど壬生狂言とやら、国でも名前だけは聞いていましたが」
「なかなか風《ふう》が変って、面白いものでございますよ。お客様、永逗留《ながとうりゅう》でございましたら、ぜひ見て行かしませ」
「それは話の種に見物がしておきたいものだ」
「それからな、あの島原という傾城町《けいせいまち》に一年一度の太夫道中がありますで、これがまた、大した見物《みもの》でございます」
「なるほど、なるほど。花魁《おいらん》の道中は、わしも一度、江戸の吉原で見ましたっけ。こちらのは、また変った趣向でもありますかな」
「ナニ、同じようなもので。わしどもは江戸のは錦絵《にしきえ》で見ましたが、あちらの方が何を申しても規模は大きいには大きいことでござりましょうが、道中の本家はやはりこの島原だ
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