わからずやを言うなよ、隊長の近藤君や、芹沢君はじめ、みんなこの島の定連《じょうれん》なのじゃ、貴様、若いくせに、ここまで来て素通《すどお》りという法があるか」
「拙者は左様な粋人《すいじん》とは違う」
「いや、そうでない、貴公のようなのが、女には騒がれる。都へ来て島原の太夫《たゆう》を知らんというは話にならんテ、なあ溝部《みぞべ》」
「それに違いない」
「それ見ろ、一度この中へ入って済度《さいど》を受けてみんことにゃ、世の中の人情というものの極意《ごくい》がわからん」
壬生と島原とは呼び交わすばかりの間である。兵馬としても、ここに島原のあることを知らないはずはないが、井村はしきりに兵馬の袖を引張って放しません。
その言うがままに行ってみたらどうだろう、そうして彼等の為すがままに任せておいて、それから、何かを機会に調べてみたら、それも妙ではあるまいか。
兵馬は、ふと、こんなことを思い出して、強《し》いて袖を振り放そうとしないうちに、もう遊廓《ゆうかく》の一町ほど手前まで来てしまいました。
「よし、行くところまで行ってみよう」
ついに大門《おおもん》の前まで来た。
「これ見ろ宇津木
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