ご》たらしい殺され方」
「それ、血が袴《はかま》の裾《すそ》に」
「傷はどうじゃ」
「胸を一突き」
「もっと提灯を近く」
「ああかわいそうに。乳の下を突かれたのかね」
提灯を突きつけてオドオドしていた与八は、
「おや、なんだか見たことのあるような女衆だ」
与八は死人の面《かお》に自分の面を摺《す》りつけるようにして、
「もし……この女衆は……お浜さま……」
不安の色で兵馬を見上げて、
「兵馬様……お前様もよくこの女衆の面を見て下さいまし、気のせいか、文之丞様の奥様に似てござる」
「ナニ、姉上に?」
兵馬は附添の片柳と水島とを押し分けて、
「姿は変れどよう似てござる、念のため与八どの、この女の持物はないか、調べてくりゃれ」
「ここに短い刀が……書付が……あれ、こっちにも」
与八が拾って兵馬に手渡したのは、意外にも自分の手から机竜之助に送った果し状でありました。
次に受取った一通、
「なに、宇津木兵馬殿へ、はまより?」
これはお浜の手ずから書いたもので、そして兵馬に宛てた手紙。
机竜之助は果し合いの場へ出て来ませんでした。
果し状をつけられながら逃げるというはこの上もな
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