君がやって来て、春秋社がトルストイ全集で大いに当てた、更に多方面の出版に乗り出したい、就ては大菩薩峠を出版したいがどうだろうという話であった、自分としては最初は道楽ではじめたことも今となってはなかなか重荷であると思っていたところへこの話であり、又春秋社というのも相当に品位のある出版社であり、社主神田豊穂君という人もなかなかよい人である、どうだ相談に乗らないかという話であったから、それは乗れそうな話だ、よくこちらの心持ちが分って出版して貰えればお任かせ申してもよろしい、では二人で神田君を訪問しようということでその時分、たしか神田辺にあったと思う春秋社の楼上へ神田君を訪ねて話をきめてしまったのである、その時に出版について相当条件も話し合い、それから今までの紙型を神田君に引き渡し、そうして話を決めて帰って来た、神田君が梯子段の下まで送って来て、こちらから伺わなければならないのにお出で下さって恐れ入りますというようなことを云ったと覚えている。
 それから、春秋社の手にかかって洋装本と和装本と二通り出すことにした、洋装本の方は四六型で背中の処へ赤い絹がかかった紙板表紙であり、和装の方は大菩薩峠の
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