て置いて棺もその中へ十分ゆとりのあるように収めて貰い都合によっては入口をつけて制限的に棺側まで出入の出来るようにして貰いたいものだ、そうにするには棺も外部を石造か金属性で被《おお》わなければならないかもしれないし、棺の中にも何か防腐用剤を詰めて置く必要が出来るかもしれないが、かなり贅沢《ぜいたく》で費用がかかるかもしれないけれども自分に多少遺財がある限りこれは実行して貰いたい、墓標葬式等の費用は極度に切り詰めてもいいから、墓の内部だけは余裕綽々たるものにして置いて貰いたい、併し基督《キリスト》教式でするように死んだあとの面《かお》を見せて廻す事は厳禁する、棺の中へ入れてしまった以上は絶対に人に見せない事、要するに火葬その他肉体を消滅に帰せしむる方法は一切これを忌避し、肉体をどこまでも尊重してゆったりと据《す》えて置いて貰い、何時息を吹き返しても、さしつかえの無いようにして置いて貰いたいこと、これは戯れに云うのではない、どうも自分は死ぬのと眠るのとが同じように思われてならない、死んでも呼吸だけはしているように思われてならない、そこで特にこのことを御依頼して置くのである。
第九 右の遺
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