が中村鶴蔵君のがんりきなども素敵な出来であって、昼夜二回興行のうち昼の部分はこの大菩薩峠と他に従来の歌舞伎劇が三幕ばかり、夜は菊池寛君のエノクアーデンを焼き直したようなものと、その以前に余輩が書いた黒谷夜話の中味によく似たところがあるという谷崎潤一郎君の「無明と愛染」というような新作を並べたものであったが、昼の方が興行的に断然優勢を示していたのは矢張り大菩薩峠の贔負《ひいき》が相当力をなしていたものと思われる。
震災当時はそんなようなわけで、劇場らしい劇場は全部焼失してしまったのだから、随分異例のことが多く、麻布の十番あたりの或る小屋へ少々手入れをしてそこを仮りに明治座と名付けて左団次一座を出演させたようなこともあったが、然し本格的にはこの本郷座が東京震災復活の第一の大劇場であったが、その後今日では本郷座も活動小屋に変化してしまって歴史ある名残《なご》りはもうすっかり見られなくなってしまった。
さあ、劇と我とに就ては、まだ細かい事は幾らもあるし、これより田中智学翁斡旋の帝劇興行をはじめ、歌舞伎、東劇、明治座の最近にまで及ぶのだが、それは追って稿を改めて述べる事とし、次号には全く別の
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