方面の人物論から着手しようと思う。

     同時代の人と我

 余輩と同時代の人物のうち、今年即ち余輩の五十歳を標準として少くとも同時代の空気を呼吸した人で、今日は歴史的になっている人だけを挙げて、将来歴史的になるべき人でも現存して居られる分ははぶき度いと思う。
 右の意味に於て私と同時代の世界の最大の偉人はトルストイであったと云って宜かろう、これは特に自分が文学に多少縁故のあるところから見た、ひが[#「ひが」に傍点]目ではなく、有ゆる方面を通じて、これを歴史に照してトルストイの偉大さは卓絶している、全世界の全人類史を通じて仮りに五人十人の偉人を挙げて見たところでトルストイの偉大さは矢張りそのうちから外れることのない程の大きさを持っている、十九世紀から二十世紀へかけて世界がこの偉人を持っていたということに大きな光彩を有している、この人は千八百二十八年に生れて千九百十年余が二十六歳の時にこの世を去った。
 それから文学に於てこれに劣らぬ全世紀有数の文豪としてビクトルユーゴーがまた明治十八年まで(即ち余の生れた年)生きていた、現に日本人でもこの偉人に目のあたり面会した人がある、板垣退助
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