山道
中里介山
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)甲斐《かい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三万|呎《フィート》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いでたち[#「いでたち」に傍点]
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大正十何年の五月、甲斐《かい》の国の塩山《えんざん》の駅から大菩薩峠《だいぼさつとうげ》に向って馬を進めて行く一人の旅人がありました。
中折《なかおれ》の帽子をかぶって、脊広の洋服に糸楯《いとだて》、草鞋《わらじ》脚半《きゃはん》といういでたち[#「いでたち」に傍点]で頬かむりした馬子に馬の口を取らせて、塩山からほぼ、三里の大菩薩峠を目ざして行く時は前にいった通り陽春の五月、日はまさしく端午《たんご》の当日であります。沿道の谷々には桃李《とうり》が笑っている、村々には鯉幟《こいのぼり》がなびいている。霞が村も山も谷も一たいに立てこめている。
行手にふさがる七千尺の大菩薩嶺そのものも春に目ざめて笑っている。
大菩薩の山は温かい山でありました。
裂石《さけいし》の雲峰寺の石段の前に通りかかった時分、紳士もあれば商
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