るに充分である。この迷信が商売の繁昌に有力な処から博士の粗製濫造大売出しが行われる――科学が迷信を助長するのではない人間の本能が迷信なくしては生きられないのではないか」
「さればこそ――科学の必要と権威がいよいよ主張されなければならぬ」
「科学の権威――というが、その権威にもおのずから権限のあることを自覚しなければなりますまい、権限を知る科学者は自分の立場に忠実であると共に、その知られざる世界に対しては無限に謙遜でなければ居られますまい」
「ノーノー、今に科学者がすべてを征服するの時が来ります、宗教の時代は過ぎました、有《あら》ゆる宗教は皆迷信を要素とするのに科学の勝利のみが着々と現実の文明を形成《かたちづく》る。詩は空想の産物で迷信とは隣りづき合いをしている、科学は既に完全に陸上を征服し今や空飛ぶ小鳥の力を奪い水を潜る魚の力を奪い、やがて有ゆるものを征服するの使命を持つ――」
この一行は今混乱状態となって栗の大木の下で、ごちゃごちゃと中休をしながら相手次第に火花を散して誰一人仲裁の任に当ろうとする者もない。
「科学が完全に陸上を征服したと広言するならば、聞いてみましょう、地上僅か三
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