「峠」という字
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)境部《さかいべ》

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「峠」という字は日本の国字である。日本にも神代から独得の日本文字があったということだが、それは史的確証が無い、人文史上日本の文字は、支那から伝えられたものであって、普通それを漢字と云っているが、日本で創製した文字もある、片仮名や平仮名はそれであって、寧ろ国字といえば、この仮名文字こそ国字であるが、普通に国字といえば、仮名を称せずして、日本製の漢字を謂《い》うのである。
 この日本製の漢字が、新たに造られたというのは天武天皇の十一年に(昭和十年より千二百四十三年以前)境部《さかいべ》の連石積《むらじいわつみ》等《ら》に命じて新字一部四十四巻を造らしめられたというのが日本書紀に記されていることを典拠としなければならぬ。右の新国字の数と種とは、今正確に分類出来ないけれども、新井白石の同文通巻によれば「峠」の如きも、当《まさ》にその時代に造らしめられた国字の一つに相違ない。
 本来の漢字によれば
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