前にはいない自分の母親を呼んだ。
*
ここで筆を擱く。――
これは私の友人A・Kが、M――脳病院へ入院するようになったそれまでの断片的物語である。気の毒なA・Kは、つい先日院内で死去した。
[#ここから1字下げ]
おれは夢と現実とを分つことが出来ない。のみならず、何処に現実がはじまり、何処に夢が定まるか分らない。それを決定することが出来ないのだ。クラリモンドに愛された僧侶……(以下十数字不明)……詩人たちが謳《うた》う人生の滓《おり》のなかにあって。
[#ここで字下げ終わり]
[#地付き]一人の男 A・K
彼は右に再録した文面を、その病院の部屋の壁へ乱雑に書き遺して置いた。
彼の病名は、そこの医者が私に教えてくれたことに間違いなければ、AMENTIA というのである。
底本:「書物の王国11 分身」国書刊行会
1999(平成11)年1月22日初版第1刷発行
底本の親本:「改造」改造社
1911(明治44)年5月
初出:「改造」改造社
1911(明治44)年5月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振り
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