い。そうして彼はそれらもろもろのものの説明を聴きたいばかりに、不安な感じに抱かれながらも、日光を浴びた町の光景のなかへ誘い込まれた。そこへ跳び出た。そうして彼は眼|眩《くら》みながらも、そこここを歩き廻った――
彼はふと思い出したように、自分の目前の青年を顧みて、ひと口てれかくすように訊ねてみた。
「どなたでしたか?」
「青沼白心です――どうでしょう、コーヒーでも飲みませんか。」
こう言って青沼は周囲を見廻した。そうして青沼は歩き出して、ちょいちょい彼を振返って見た。そうして彼等はその町の出鼻のところで、一軒のカフェを見つけた。彼等は寒水石ではないが純白な色の円卓子へ向き合って坐った。彼が気づくと、その円卓子の縁一寸ほどのところを一本の金線が細く円を描いていた。彼はその金線に添うて、火をつけない一本の巻煙草を置いてみた。彼は周囲の上へ直線がきちんと重ならないことは知りながらも、考え深かそうにそれを幾回でも繰返してみた。そのうちに青沼は自分の独り言のように小さな声で、彼へ話しかけた。
「さっきのは素晴らしいスクリーン・スナップ・ショットでしたな!」
その時、彼はちょうど一線に擬えた
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