すぐれたようなふうをして……」


 彼はこう語り終って、空を見上げながら自分でも解らないことを低い調子で独り言していた。そうして彼等二人は、いままで思い思いの考えごとを楽しんでいたかのように、無言のままでしかも顔を隠し合いながら、淋《さび》れてゆく秋の庭を眺めていた。
「ペテロとサルフィユとの心理は一応|呑込《のみこ》めるが、話としてもその表現はイージーゴーイングだね、しかし大へんすばらしい思いつきだよ……」
 彼の親友青沼白心は、突然投げつけるように言って、折り立てた膝の間へ自分の顎《あご》を挟んで、庭の隅の方を※[#「目+嬪のつくり」、194−上−15]《みつ》めていた。
「思いつき……書けるかね?」
「ふむ、イマジナティヴ・コンポジションと言った方がいい、書くとするなら……」
「ふむ、しかしこれは、おれがいままでに見た映画のつぎはぎさ、本心を言うと。で、おれは(夢に見た映画)と題をつけておいたぐらいだ。形式についてもかなり作意したつもりだ。いま話したあのまま書くつもりだ。それにしても純然たる竊盗かも知れないが――くだらないテイマでね、うっかり書いてしまうものなら子供じみたモラル風の味の外《ほか》はでそうにもない、それともそんな味さえ消えてなくなるかも知れない。焦点がなくなって。つまりやぶにらみになって……」
 彼はいままでに思ってもみなかったことを言ってから、かすかに忍び笑いをした。それは彼自身のためにであった。そうして彼には、柄にもなく大仰なことを言ってしまったことが、劇しく後悔されはじめた。彼の言ったことは、すべて過失として後悔されはじめた。彼は出来るだけの機会を捉えて親んで来た所謂《いわゆる》イマジナティヴ・コンポジションが、たった一言で無惨にも蹴散らされたと思えば、それまでのことであるが、蜂の巣のように破れている頭を信じている自分が情なく感じられた。そうして彼は未だに彼自身の自惚《うぬぼ》れに酔うていないこともなかった。
 そうしてあのコンポジションのうちに、ひょっこりと思いついたあの気の毒なウィリイこそ彼自身に外ならないではなかろうか。ところで、あんな筋の話は、所々方々、いたるところに捨ててあるものだ。それを彼はいかにも自分が作意したかのように言いふらした。彼は親友の気持を欺いてもいいと思うほど、彼自身の虚勢が大切であると考えていたのであろうか。そ
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