軽蔑その物は、それ自身の価値を持っているのだからそれでもいいが、彼自身に堪えられないことは、この軽蔑をもって、人を踏んだり蹴《け》ったりするように、寄り集って来ては慰みものにして痛快がっていることであった。その侮辱と嘲弄とは、彼にしてもどうして感じない訳には行かない。それは彼自身の敵である。それともそれは、彼自身の幻影であろうか。彼はこの明るい日の下に自己欺瞞に陥っているのであろうか。そうすればそれは、二重の欺瞞に変えられないとも限らない。彼は単にその幻覚に酔いつぶれているのであろうか。彼は自分の不幸に惑いながらも、「不幸と鉄の三解韻格」を謳《うた》った人の真似をしようとしているのであろうか。しかしそれを謳ったジョン・カーターその人は、泣ごとや不平をこぼしたことすらなかったではないか。その人は笑い声一つさえたてなかったではないか。紙屑とボール紙との貼り合せであると思っていたこの世が、その人には神の烙印《らくいん》と見えたのであろうか。それにしても、彼は泣きごとや不平をこぼしたことが、果してあったであろうか。それが若しもあったとするなら、馬鹿気たことではあるまいか。二重の欺瞞に魅せられて憤恨を蹴散らすとすれば、彼は本当の道化者と何らの変りもないではないか。
「道化者!」
彼は、誰かが囁《ささや》いたかのように、こう囁いた。彼は妙な気持ちになってしまった。彼がこう囁いただけで、内側のない紙屑とボール紙とで貼り合せられたこの地球儀のような地球が、げっそりとひしゃげてしまいそうに思えた。
彼は割り当てられたその役を踏み外《そ》らして途方に暮れていると愚かにも考えるが、どうやら彼は道化者としての役を振りあてられているらしい。そうして彼は何とでもして生きなければならない。彼には並外れた野心のあるためではないが、そうしてまた、よしそんな野心があったにしたところで、彼はその犠牲となるのは好ましくないのであるが、彼は自分の家族と生活を共にしなければならないのである。一生にたった一度より外は持てない親――彼の父親は最早この絢爛《けんらん》な空気を呼吸してはいない――たった一人の片親である母親を養わなければならない。それは彼自身の義務である、その義務を果すために、彼は生きなければならない。これは彼自身の空《うつろ》な言葉でないと同時に、彼の妄想でもない。彼はその義務を果すということを
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