ネどいつも之を説いている)。併し個々の文学者や評論家の常識であるということと、世間[#「世間」に傍点]が之を自覚[#「自覚」に傍点]しているということとは、勿論別だ。世間は之を自覚すること決して充分でなかったというのが、事実ではないだろうか。
さて、本書を世に送る所以は、右のような次第であるが、併し私が決してブック・レヴューの模範を示そうというような心算でないのは、断わるまでもあるまい。もし万一之が模範にでもなるとしたら、ブック・レヴューを今日の水準から高めるよりも、寧ろ却って低める作用をしないとも限らない。私がここに登録したブック・レヴューは、私の力自身から計っても、決して満足なものではなく、又世間の水準から云えば愈々貧弱なものだということを、卒直に認めざるを得ない。それにも拘らずこういう貧弱な内容のものを敢えて出版するのは、つまり一種の宣伝(「ブック・レヴュー」のための)であり、このまずいものを以て宣伝することが、やや滑稽に見えるとすれば、結局私はこの宣伝のための犠牲者になるわけなのである。私はこの位いの犠牲は忍ぶことが出来る。そういう図々しさを必要な道徳だとさえ思っているから。
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