スティックに評価されるべきだ。――さてシュナイダーの本はイタリアのファシズムを取扱っているがもう時代が古い。ダットのものはイギリスの事情を詳説しながら国際的に問題を提起した名著である。ピアトニツキーのは眼界がドイツの情勢に限定しているが、実に卓越した教訓に充ちている。だが極めて特殊な形式を持っている日本ファシズムに連関して、吾々が日頃懐いている多数の未解決な問題に対する解決の観点を、この種の叙述の内から導き出すことは、事実あまり容易なことではないだろう。日本ファシズムに関して特に要点をなすものは、ファッショ化の現象であり、「半ファシズム」や「前ファシズム」の現象なのである(そして之に連関して文武官僚や中間層の問題だ)。吾々はかねがねこれ等の基本問題をば、要点を強調するという形に於いて抽象的な定式の下に、理論的に用意して呉れないかと考えている。――処でこういう要求を充たすものが、恰も本書なのである。
 ダットはまず初めに「ファッショ化」と「社会ファシズムの諸問題」とに筆を集中している。ファシズムの所謂「定義」にとってはこの観点は必要欠くことの出来ぬものなのである。之は最近のファシズム現象の分析には大切な要点だ。それと共に、最近のファシズムの分析が要求する課題として、ダットは、第一、ファシズムの経済的基礎[#「経済的基礎」に傍点]の取扱いの深化、第二、ファシズムの大衆的基礎[#「大衆的基礎」に傍点]とその階級的デマゴギー[#「デマゴギー」に傍点]との関係を明晰にすること、第三、ファッショ化過程の多様性[#「ファッショ化過程の多様性」に傍点]のより立ち入った分析、第四、ファシズムと植民地諸国[#「植民地諸国」に傍点]の問題、第五、社会民主主義[#「社会民主主義」に傍点]とファシズムとの関係に関する新しい諸問題、第六、中間層[#「中間層」に傍点]の問題の重大性をより以上認識すること、を挙げている。次に彼は「半ファシズム」、「前ファシズム」、「隠蔽されたファシズム」、等々の過渡的諸段階のカテゴリーを厳正に使用する試みを与えている。それと共に、「各国にとって単一なファッショ化方針などがあるものではない」ことを強調することによって、ファシズムに就いての生きた実際的な観念が読者に与えられるだろう。之は「日本ファシズム」の理解にとって極めて重大な点だ。
 マジャールの論文は世界各国のファッショ化過程についての有益な概括から出発している。云わば世界ファシズム小論と云っていい。次のライマンの論文と共に、ダットの「汎論」に帰するものである。ライマン「都市中間層論」ではファシズムの大衆的基礎[#「大衆的基礎」に傍点]とその階級的本質との食い違いから問題が提起される。そして社民とマルクス主義とによる中間層論の比較があり、やがてインテリゲンチャ論に及んでいる。勿論ここではインテリゲンチャなるカテゴリーを中間層の一種などに数えているのではない。中間層外のブルジョア的又はプロレタリア的なインテリゲンチャを想定した上で分析が施されるのだ。「知識階級に関してはそのうちのブルジョア分子は問題外として、注意すべきことは賃金労働に従事している層と、未だに独立の小ブルジョア的生活を営む者(自由労働者)とを区別することである。」(一二七頁)。ラデックの論文はドイツ・ファシズムの経済政策が如何に戦争[#「戦争」に傍点]にその最後のはけ口を求めねばならぬかを明らかにしている。ヘルンレの論文は訳編者の言葉によると、「ドイツ・ファシズムの農業政策を取り扱った論文の少い折柄相当参考になる。」要するにこの書物は、可なりかゆい処へ手の届いたという感じを与えるもので、日本のファシズムを原則的に分析するためには必読の書物だと云わねばならぬ。そう云っただけで「批判」はしないのか? と問われるかも知らぬが、之は実際的に充用[#「充用」に傍点]する前に「批判」してかからねばならぬ程の不満を呼び起こすものを、含んでいないだろうと思う。出来るだけ有効な示唆を惹き出す方が、この際実際的な読書法だ。
 (一九三六・叢文閣版・四六判一九二頁・定価九〇銭)
[#改段]


 7 T・E・ヒューム 長谷川鉱平訳『芸術とヒューマニズム』


 ヒューマニズムの声の高い時にこの本を選んで訳したことは、意味のあることだ。なぜなら之は要するにヒューマニズムに対する反対をとなえた本だからである。著者はベルグソンの理解者として知られているものであるが、本書はその遺稿集である。カトリック主義に立ちつつモダーニズムを包括しようという処に、現代に於けるヒューマニズム[#「現代に於けるヒューマニズム」に傍点]との対抗を必然的に結果しなければならぬものがある。恐らくこの本はその代表的なものだろう。主論文は「ヒューマニズムと宗教的態度
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