る。これは今後大いに利用されるだろう部分である。
 第三の宗教復興批判は、近頃の快事に数えねばならぬ。現在の宗教論者の論理的ナンセンスと露骨な階級的意図が、見事に裸にされている。これは宗教復興現象に対する総決算になるといっていい。
 併し、この本で欠けているものは宗教思想史[#「思想史」に傍点]である。之亦唯物論にとって見逃すことの出来ない課題である。唯物史観による日本宗教思想史は、処で最近三枝博音氏が手を着けている。尤もその際氏の唯物論はまだ動揺を免れないらしいが、氏が材料を征服し終る時が近い内に来ることを吾々は期待してよいと思う(なお日本宗教史の研究では「日本宗教史研究会」から論文集が出ている――『日本宗教研究』及び最近の『寺院経済史研究』)。
 著者秋沢修二氏(永田氏に就いてはすでに前に書いた)が哲学的教養に富んだ徹底した唯物論者であることは、以前から知られている。そして宗教批判こそは氏の得意の壇場なのである。私はこの書物によって唯物論的に甚だしく啓発されたことを、素直に断わっておく。
[#改段]


 7 『現代哲学辞典』


 三木清氏が編集代表となり、他に甘粕石介、樺俊雄、加茂儀一、清水幾太郎、の四氏を編集委員とする『現代哲学辞典』が、出版の運びに至った。現代哲学研究会という或るグループを中心としての仕事であるが、この研究会のメンバーには文化上の各方面の新鋭な代表者が少なからず含まれている。その各々は夫々の専門領域をば広義に於ける現代哲学[#「現代哲学」に傍点]へ結びつけることを忘れない人々なのである。現代哲学辞典というようなものの編集執筆には、打ってつけのスタッフだと云わねばならぬ。執筆者は三十二名である。
 この辞典の第一の特色は、序言にもある通り、Vierkandt の 〔Handwo:rterbuch der Soziologie〕 の編集方針に倣ったという点にある。即ち比較的少数の項目によって、最も必要な事項を網羅するというのがその建前であり、夫々の項目が比較的に詳しく説明されることによって、項目として現われていない諸問題概念も、おのずから取上げられるという仕組みである。六十七項目の内に含まれた諸事項に就いては、別に邦語及び外国語による索引が与えられていて、検索することが出来るようになっている。人名についても同様である。つまりこの形式の編集によ
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