え出来ない他の動物よりも、立派なのだ、と云う。
 アウグスティヌスによれば、道徳は幸福[#「幸福」に傍点]と永生[#「永生」に傍点]との内に存する。ギリシア哲学者はエピクロス学派もストイック学派も幸福を地上のものに限って考えたので、之を永生へ結びつける術を知らなかった。処が真の完全な幸福は、神を楽しむことでなければならぬ、と云うのである。――でここに、道徳に就いての倫理学的観念に就いて、神の世界がその根柢を与えることとなったわけだ。道徳的な善悪は、イデアの問題でもなければ現世的な生活術の問題でもなくて、天国と地上との対立のことでしかなくなった。之はヘブライ的思想から来た全く新しい観念論的観点なのである(ヘブライ思想をギリシア思想に結びつけたものがこのアウグスティヌスで、之に先立って、ギリシア思想を東方思想に結びつけたのがプロティノスであった)。
 だが夫と同時に、エピクロス学派やストイック学派には見られなかったような、一つの視野が開かれて来たことを見落してはならぬ。と云うのは、アウグスティヌスの「神の国」はカエサルの国の対蹠物に他ならなかったので、当然この現実の社会[#「社会」に傍点]
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