ヌスのものであった。彼によれば神の存在の証明は宇宙論的にも心理的にも出来ると云うのであるが、神の道徳的証明が何より今興味がある。人間が善をなすように仕向けるものは、社会其の他による外部的強制ではない。それはただ善き意志[#「善き意志」に傍点]だけがなし得る処だ。これは神の意志である他ない、と云うのである。人間はこの神に仕え、神はその善き目的の下に人間をあらしめる。神は人間に恩寵を垂れ給う。そしてこの恩寵の内にこそ人間の道徳が横たわるのである。――人間は意志の自由[#「意志の自由」に傍点]を持っている、これこそ神が人間にだけ与え給う恩寵だ、従って之は実は人間のものではなくて神にぞくする。その意味では吾々は道徳的に決定論・宿命論のものだ、意志の自由[#「意志の自由」に傍点]は本当ではない。だが事実、神が与えた意志自由によって人間は現に悪をなすことが出来る。処がこの悪も亦恩寵の一つなのだ。悪は世界の全体の善に寄与するためにあらざるを得ないものだ、と云うのである。馬は石に躓いても、躓くことの出来ない石よりも、よく歩くものであり、人間は自由意志によって罪を犯しても、自由意志がなくて罪を犯すことさ
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