に傍点]は近代ブルジョア倫理学によって、決算報告を受け取ったという形であるし、それだけではなく、このブルジョア倫理学の崩壊と共に、古来観念論的に提出されて来た道徳理論が、初めて科学的な会計検査を受ける時期に這入る、というわけだからである。道徳の唯物論的理論こそ、古来の倫理思想乃至倫理学と、近代倫理学思想との、本当の決算でなければならぬだろう(一般の倫理学史としてはF Jodl,Geschichte d.Ethik,2 Bde.が、短いものではクロポトキン『倫理学』が便利である)。

 さて所謂倫理学(近代ブルジョア倫理学)の一般的特色に就いてはこの位いにして、今度は倫理学による道徳の伝統的観念を明らかにする順序である。それにはこの倫理学的道徳観念が、どのような道徳問題を選択したか又するか、そして之を如何なる形で解こうと欲したか又するか、を見ればよい。
 古代支那や古代インドに就いては暫く措こう。古代ギリシアに於ては、道徳が倫理学的[#「倫理学的」に傍点]反省の対象となったのは決してそれ程古い時代からではない。なる程道徳的観念が思想一般に一定の作用をし始めたのは、恐らくギリシア都市国家の
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