して皮相なものがその中でも特に倫理思想と呼ばれ、そして他のそれより立ち入って科学的に分析された反映の部分は偶々他の名で呼ばれるに過ぎないから(道徳に関する社会科学的観念や文学的観念の如き)、倫理思想が古来人間の生活と思想とを一貫して来ていることに何の不思議もない。従って所謂倫理学の素材も亦古く古代と中世とを通じて伝承されたものによる他はなかったわけで、その意味から云えば又、古来倫理学は存在したのだ。――つまりブルジョア倫理学は(之はイギリスに発生しドイツ観念論との接触を以て栄えて今日に至っている処のものを中心とする)、当然なことながら、封建制下に於ける倫理思想乃至倫理学(主にキリスト教神学的な)、又それにも増して、奴隷制度下に於ける古代倫理思想乃至倫理学(末期ギリシア及びギリシア・ローマ時代の哲学と教父神学とを中心とする)からの伝統を有つわけで、この伝統の近世資本主義的変貌であると云っていいだろう。
すでにアリストテレスでは「倫理学」と呼ばれる書物は二つまである(道徳論と題するものも一二あるが)。このようにこの名称自身は、古い歴史を有っているのは断わるまでもない。併しそれであるからと
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