ならぬだろう。だから之を以てすぐ様、倫理学的思想とすることは出来ないわけだ。――元来今日云う処の所謂倫理学(近代倫理学)は、主にイングランドを中心として発生し又隆興したものであって、イギリスの倫理学・道徳科学・道徳哲学、等々がその最初の代表者なのだ。トーマス・ホッブズが人間社会に於ける善悪の区別を、社会支配の法的・法律的な合法性と非合法性との区別に解消しようとして以来、そして之は彼一流の人間論(マキャヴェリの系統を引く処の人間狼説)に立脚するのであるが、それ以来、イギリスの哲学に於ては、人性論に立脚して、専ら道徳理論が盛大に展開された。而も之がイギリスの哲学全体を可なりに永く支配した。で近代倫理学の存在権は、歴史的にはここで確立されたものと見てよい(H.Sidgwick,Outlines of the History of Ethics参照)。
尤もホッブズの思想は必ずしも所謂「倫理学」ではない。又イギリスの道徳理論家(即ちイギリスの多くの哲学者だが)が皆、その道徳理論を「倫理学」と呼んだわけでもない。だが哲学史に於ける彼等の業績は、倫理学という或る独立独自な学問[#「独立独自な学問
前へ
次へ
全153ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング