に直接連続しているのである。真のモラルは一般にそう考えられている通り、所謂常識的なものの否定克服だろう、だがモラル(もっと気取らずにいえば「道徳」のことでもっとアカデミックにいえば「倫理」という名もある)は、社会感覚・社会意識を離れてどこにも成り立つことは出来ない。そうでないようないわゆる「モラル」という言葉は、往々愛用されないではないが、それは一つ覚えからくるナンセンスな方言の典型にすぎない。でそうすればモラル=道徳も元来常識なるものから独立して成り立つことは出来ない。常識こそ一つの低級なモラルであり、モラルこそ新しい常識への進出だ。常識を否定するのにはまず常識から踏みはじめねばならぬ。――こういう意味において文学は社会人にとって、いわばごく健全な[#「健全な」に傍点](常識は古来「健全」なものと相場がきまっている)娯楽性をもっているのが当然でなくてはならぬ。文学の面白さというものの一つはこの社会面的なものにあるのかも知れない。

   四[#「四」はゴシック体]

 いうまでもないことだが、帝人事件などについては私は何等関係もない。にも拘らず私は人一倍これに興味を覚えた。なぜかとい
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