たすものなのだ。スクリーンに現われる内容は最も具象的なのだ。その芸術的[#「芸術的」に傍点]世界が具象的であるなしに関係なしにそうなのだ。
 この誰でも知っている事柄は一見何でもないようなことだが、之が映画の内容の特色を最後にまで渡って決定する先決条件になっていることを、まず卒直に見とどけなければならぬと私は考える。つまり映画は何と云ってもまず第一に写真であり、動く写真であるということを、強調しなければならぬ、それの上で一切の映画美学が試みられるべきだというのである。この写真は云うまでもなく最も具体的な現実的リアリティーを有っている。修正や所謂芸術写真というようなものであっても、もしこの現実的リアリティーの再生を土台にしないならば、写真の独特な好さは見失われるだろう。この写真の現実的リアリティーにモーションと音とを加えたものが、スクリーンの物理的イメージなのである。
 以上云ったことは全く生理的物理的基礎の外へ出ないのであって、映画の社会的・歴史的又劇的・文学的其の他の条件をまだ問題にしないのだが、それだけでもすでに映画に特有な一つの世界の説明として足りるものがある。実写[#「実写」に
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