いわけである。
杉村楚人冠は月刊総合雑誌が一方において月刊単行本の観があり、他方に於て月刊時事新聞の観があるのを、総合雑誌の「超総合」の性質が齎す危機だとし、週刊と季刊とに分離するのが今後の着眼点だろうと説いている。一応尤もであるが、併し一方月刊単行本であり、他方月刊時事新聞でもあるという性質こそ、今日の日本の総合雑誌の「総合」雑誌である所以であって、それが単行本でも日刊新聞でも充されない読者の要求を充すというので、之まで売れて来ているのである。実際、単行本の多くは全く時期性を欠くし、日刊新聞では要約と見透しを欠いているからだ。
原則論と時事論とが同居していることが、総合雑誌の危機の原因ではなくて、その総合[#「総合」に傍点]なるもの自身に何の統一も中心もないことがこの危機なるものの本質だ。そしてこの危機は、論壇なるものがあやふやな存在現象であることと、直接関係のあることなのである。
二[#「二」はゴシック体]
例えば一九三六年の九月号なら九月号にのせなければ時宜を失するトピックがある。取引所惑乱問題やオリンピックの話が之である。又九月号に載せておく必要のあるトピックもある。スペイン反乱問題や電力民有国営論などがそうだ。『改造』・『中央公論』・『日本評論』・『文芸春秋』の四大総合評論雑誌は、無論ぬかりなく之を夫々取り上げる。つまり之は新聞記事の批評的・紹介的・要約的・なしめくくりに他ならぬ処の完全なニュース乃至時評ものだ。
と思うと例えば一九三六年の九月号で見ると、「現代社会学の動向」(『改造』・本田喜代治)とか「不連続性の思想様式」(『中央公論』・杉村広蔵)とか「我国に於ける学問の変態」(同・佐藤信衛)とかいう、今年の九月でなくてもよいような、多少又は極めてアカデミックな議論や報告がのる。創作欄や中間物は除いて所謂論壇を構成しそうなものだけ見ても、まずこの両端があるのである。両者の中間にあるものとしては、一つには「自由と青年」(『中公』・矢内原忠雄)や「統制経済と国家権力」(『改造』・石浜知行)や「資本主義と農業」(同・向坂逸郎)などの一群と、二つには如是閑のもの(「ラジオ文化の根本問題」――『中公』・「文章漫談」――『日本評論』)の類に這入る他の群との区別がある。
こうして「論文」やエッセイやクリティックをつきまぜて一束にして考えたものが所謂論壇なるものの作品表になるわけで、ここには何等の総合の原理もないのだが、而も恰もこうしたものが総合雑誌の所謂「総合」(乃至楚人冠によれば「超総合」)と呼ばれているのだ。無論総合の原理のない総合雑誌など、あってたまるものではないのに。――だが仮にもう少しこの総合振りを親切に見ることにするなら、之はただの総合(つまり雑然たるモザイック編集)ではないのである。とに角所謂総合雑誌は評論[#「評論」に傍点]雑誌なのである。学術[#「学術」に傍点]雑誌でもなければ、報道[#「報道」に傍点]雑誌でもない、評論雑誌なのだ。と云う意味は夫が日常時事の問題に触れながら編集される思想[#「思想」に傍点]雑誌だというのである。今日の所謂総合雑誌=評論雑誌は、大衆雑誌と異って、高級[#「高級」に傍点]雑誌であることを忘れてはならぬ。そのことの良し悪し得失はとに角として、この種のものが事実思想雑誌[#「思想雑誌」に傍点]として読まれていることを、もっと判然と認識しなければならぬ。
さて之を思想雑誌として見直すなら、総合や超総合の危機の解決に、楚人冠の実際的[#「実際的」に傍点]見解とは少し別な見解を参考する必要を生じる筈だ。ニュースでもよい、時評でもよい、エッセイでもよい、学術論文でもよい、とに角夫が、時代の動き行く「思想」を解明するに足るような内容として[#「として」に傍点]掴まれている限り、そこに立派に総合の原則は見つかる筈なのである。――それが事実上、総合の実を挙げていないのは、筆者にも編集者にも、思想的評論[#「思想的評論」に傍点]を書くという観念が貧弱であるか、そういう訓練が乏しいか、であるからにすぎぬ。思想による統一こそ総合雑誌の総合点になっている。ただそれが徹底していないだけだ。そして論壇というものが何かと云うなら、こうした思想的評論の壇だと答えればいいわけだ。
そんなことは誰でも判っていると云われるかも知れぬ。だが判ってはいるかも知れぬがこれを確信している者は多いとは云えまい。「論文」という名義にひきずられてただの学術論文めいたものが書かれたり、そうかと思うと「科学」の名にかくれて、科学セクション式に仕切りに仕切られたベア・ファクトが出ていたり、一体思想はどこへ行ったかと云いたくなるだろう。之は論壇ジャーナリズムの歪曲でなければ低落と云わねばならぬ。
三[#「三」は
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