政学的な錯覚を産んだのだと、世間は邪推するかも知れない。だが物価騰貴が、急激に増大した国家予算と、それの実施に伴う大局に於て売買者の主観と独立な需給関係の結果、とそれから対外為替相場の下落とに基くという民間の説は、嘘なのだろうか。「根本的[#「根本的」に傍点]に」物価の需給関係を調整するということは、一体何か、思惑抑圧か、それとも軍事予算でも減らすことか。
よって以て「国際収支の改善を図る」と称する「資源の確保」や「移民の促進」が、「貿易の伸展」や「海運の発展」を妨げることによって、却って国際収支を改悪しはしないかどうか、之は今日の国民が政府へ問い糾したい処だろう。――で要するに、八大政綱の最後の総花的政綱は、説明が他のより少し長いと思ったら、果して具体的に理解するには障碍だらけのもので、八大政綱の間を一貫する体系的で組織的な「矛盾」のはき溜めのような気がしてならない。私はここに来るまでの各政綱項目については、荷厄介になりそうな「民衆の利便」とか「社会政策」とか「国民生活の安定」とか、村民の「更生」とかいう塵芥を芟除して来たが、ここに到って遂に進退が谷《きわ》まるのである。で準戦時体制という八大政綱、現政府、可能的政府、を貫くシステムが、矛盾のない首尾一貫したユークリッドの幾何学のように、演繹の利く体系であるかのように、私は初めに云ったかも知れぬが、それは最後に訂正しなければならない。
[#地から1字上げ](一九三七・五)
底本:「戸坂潤全集 別巻」勁草書房
1979(昭和54)年11月20日第1刷発行
初出:「文藝春秋」
1933(昭和8年)年6月〜1937(昭和12)年5月
※各評論の文末にある日付は、原則として「文藝春秋」の掲載年月号を表している。
ただし、改行した次の行にも日付が書かれている場合、前の日付は執筆時の日付、後の日付が「文藝春秋」の掲載年月号を表している。
※底本では目次の作品名と実際の作品名が違う例がある。その場合、目次の作品名を実際の作品名に合わせた。
入力:矢野正人
校正:Juki
2009年5月9日作成
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