私は、言わば雑誌編集者の紹介によって、両巨頭から同志としての待遇を受けるの光栄を有たされたわけなのである。而も大事なことに之は何も私だけの特権ではない、幾万という雑誌読者が皆そうした光栄に浴するのである、否幾百万という新聞読者までが、この光栄の結論的な「摘要」の託宣にあずかるのである。――だが一体、ファッシズムの怒濤のおかげで、今日ロクロク物も云えず息もつけずにいるような吾々娑婆の俗物達と、獄内の被告同志とを、一列に取り扱おうとするのが元来少し無理ではないだろうか。
「同志に告ぐる書」は、同志によって批難[#「批難」に傍点]されるだろう場合ばかりに気を配っているようだが、同志の待遇を受ける光栄を有つだろう「世間」から喝采[#「喝采」に傍点]を博するだろうことに就いては、一向自信を持っていないらしく見える――併し世間の心ある識者達は、いずれも之に熱烈な喝采を送るのを惜んでいない、という吉報を、修道院のように静寂な獄内に坐している巨頭達の耳へ、早く入れてやりたいものである。――満州問題の成功や近くは円価の反騰、農村の「好況」などでこの頃益々気を好くしている日本の世間であるから、(ロンドンの
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