転向が「本当」だということはもはや疑う余地もなく保証されているのである。
併し新聞が伝える限りでは、この新しい主張がなぜ正しいかという点に就いては云うまでもなく、こういう転向の過程がどう理由づけられているかも一向説明されていない。そして唯々「共産主義を蹴飛ばし」「ファッショに転向」したという、一種の託宣めいた結果だけを、繰り返し繰り返し報道しているにすぎない。こうなると新聞は妙に不親切なものである。
尤も新聞は同時に吾々に一つの希望を与えることを怠ってはいなかった。例の七項からなる上申書「思想転向の要項」の全文と「緊迫せる海外情勢と日本民族及びその労働者階級」(副題、「戦争及び内部改革の接近を前にしてのコミンターン及び日本共産党を自己批判する」)という八項からなる声明書とが検事局から出版されることに決ったということを新聞は報じているのである。この出版物が読んでも判らない程度に伏字になったり、発禁になったり、しないことを吾々は衷心から希望せざるを得ないのであるが、とにかくこの出版物が吾々第三者の立場にあるものの疑問を解いて呉れる唯一の希望だと考えられた。こうして新聞は鮮かに「本当」の
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