治の刷新行政の改善を図ること」である。その説明には、議院制度選挙制度の改善、行政機構の整備、中央航空行政機関の新設、官吏制度の改正があり、「また一面、」「民衆の利便を図らんとす」とある。之もまた今日、日本の国民はいやという程知っている具体的なもののことを云っているのである。之をしもなお抽象的であり、要は実行如何にある、などと称する政党人がいるとしたら、彼等は大政綱と小政綱(?)との区別を知らぬものと云う他あるまい。特に、中央航空行政機関の新設という項目が大政綱の一部として挙げられているなど、如何に之が具体的であるかのいい例ではないだろうか。橋本欣五郎という大佐が自分で造った日本青年党とかいう政党があるが、その綱領の一つに突如として飛行機論が出て来るのであるが、私は今夫を思い出す。現内閣による「政治」の刷新の軍隊的な具体的面目が躍如としているではないか。ただ抽象的にひびくのは「民衆の利便」というまたの一面[#「またの一面」に傍点]である。抽象的というのは、国民がまだ具体的に夫を知っていないからである。大いに切望はしているがまだ現実には一向打つかったことがないものが、抽象的だ。民衆の利便[#「利便」に傍点]と云っても、決して民衆の便利[#「便利」に傍点]を逆に行くという意味ではなく、軍隊用語では民衆の常識的用語を逆にする伝統があるからに過ぎないのだが、利便を便利に直しても国民にとっては依然として具体的にはならぬようだ。之が具体的でないということはつまり夫が例の準戦時的体制から論理的に手際よく演繹出来ないからである。「なお一面」たる所以だ。
第三の政綱は「挙国一致の外交を具体化すること」であるが、具体化そうというのだから、「挙国一致の外交」そのものは抽象的なものでもいいだろう。実際之は国民がこの間まで充分具体的にはのみ込めなかったものであるが、準戦時体制に不可欠の要素でもあり得る[#「あり得る」に傍点]ことは、民衆は知らぬでもない。尤も民衆は挙国一致外交が必ずしも準戦時体制の一環に限るものではないことをも知っている。北支行動、其他が挙国不一致外交の結果だったというのが本当なら、北支行動の消極化が即ち現在の挙国一致外交であるかも知れぬ、というロジックも成り立つだろう。だが政府はこの政綱をあまり分り切ったことと思ったか、それとも云わない方が苦しい説明を免れる途だと考えたか、説明文をつけていないのである。恐らく、次の政綱が説明抜きである処を見ると、例の準戦時体制の体系のあまりに直接な結論だからなのだろう。
次の政綱というのは、第四の「軍備の充実、国家総動員的準備を進むること」であり、之には何等の説明もついていないが、之は最も具体的に国民が知っていることだ。国民は増税や物価騰貴やその他で、色々な意味に於て之を充分「認識」している。説明の要らぬのは当然だ。この一項だけで八大政綱は代表されるのだからである。ただこの最も重大な項目をそ知らぬ顔で何気なくアッサリと中途に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]んであるなどと仲々面白いやり方である。だが祭政一致の体系から、準戦時体制を演繹しようという林内閣のイデオロギー的な順序から行けば、之でいいのである。
第五政綱は「社会政策の徹底を図り国民生活の安定を期すること」とある。期する[#「期する」に傍点]というのは正直な表現で、二階から目薬という感じを仲々よく文学的に表現する。だがその説明によると、実は、割合具体的だ。国民体位の向上、各種社会保険制度の確立、勤労者福利の助長奨励、労働力の維持増進、によって国民生活の安定を期そうというのだ。真中の二つは具体的に判るが、労働力の維持増進というのは何か一寸は判りかねよう。労働力は今日の社会機構では労働者のものではなくて資本家の所有である。少くとも役に立つ労働力(ゴロゴロ遊んでいる労働力でない限り)はそうだ。その維持増進が国民生活の安定になるというのは、少し変である。尤も労働力の維持というのは何か労働者の健康のことかも知れぬ、なる程健康ならば増進という言葉も常識的に判る。だがそうすると日本の労働者は不健康であるために失業しているということになる。社会の矛盾を生理的に解決する次第だが、この点最初の「国民体位の向上」を考え合わせて見ると、納得が行くものがあるだろう。ここで政府の目指す処は軍人たるべき壮丁の体位の下向を防ぐということだ。つまり体格優秀なる軍人が出来れば国民生活は安定を期し得るというわけになる。労働力というのも資本主義的に見た限りの壮丁(労働者)の体位のことだっただろう。労働者は今や、資本主義的壮丁として生活の安定(?)を期せられる。之は労働の軍事化の観念であり、夫が労働組合脱退の奨励ともなれば、やがて国家的報仕労働
前へ
次へ
全101ページ中99ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング