、問題は警視庁全般の綱紀問題にまで拡大しそうだと見られている。で之は決して武内某氏だけの問題ではなく、××××××××××に関する職権×用の問題であるが、之なども矢張一種の高等政策警察であって、偶々夫が最も下等な高等警察であったに過ぎない。「高等警察」なるものは、つまりこうした××が合法化されて現われた一警察行政機能だったわけだ。
だが、そうは云っても、実際問題として、どこまでが本来の警察機能で、どこからが越権的警察機能であるかは、簡単には決められない。高等警察と下等警察との限界をどう決めるかということが、即ち又高等政策警察にぞくすることで、そうすると結局、どんなに所謂「高等警察」が廃止になっても、警察そのものの「高等警察性」は消えて失せるものではない。どんなに下等警察(?)でも、警察である以上高等だということは、非常に尤もなことかも知れぬ。その証拠には特高課[#「特高課」に傍点]というものがあって、高等政策警察の内でも、特別に之だけは廃止どころか発達を嘱望されているのを見ればよい。
今や高等課の廃止によって、この特高課が「高等警察」の、即ち警察機能の高等警察性の、代表者の名誉を担うことが名実ともに出来るようになった。無論特高警察は越権的な警察機能ではない、それどころではなく、之こそ火事の予防や交通の整理や人命や財産や名誉の保護よりも大事な時にはそのために国民の人命や財産や名誉を×××××××××ない程の、警察の本来的な本質的な機能である。だがそれが××であるかないかが、実はそれの「高等警察」性によって、即ち××的に、決められるのだから、愈々之は警察の花形なのである。
実際の話しが、或る人物を警察へ引致するかしないかは、すでに特高課の「高等警察」的な判断にかかっている。云わば目に立って有害そう[#「そう」に傍点]に見える男は、その思想に基く犯罪の確証が××××××、思想政策上引致されるかも知れない。この際すでに或る意味で、この男を××にするかしないかが、高等警察的に決まっているのである、其他其他。之が特高警察の「高等警察性」であり、この高等警察性が警察機能の本質なのである。――ではなぜ高等課が廃止になるのに特高課は盛大になるか。それは二つの場合では、同じ警察機能でも、それは権力を発揮する対象が、殆んど全く相異っているから、当然なのだ。所謂高等警察の取り扱う対象は「高等」な社会人であるが、特高課の対象は之に反して下等[#「下等」に傍点]な社会人なのだ。ただ夫だけだ。
高等警察の廃止は政党の凋落を物語る、警察は政党が凋落したものだから、その××であった高等課を振り捨てるのだ、と云われている。それはそうだ。併しそれは同時に警察の特高化を、思想憲兵化を、物語っている。丁度政党や官僚や、軍閥が或る一点に向って集中して行くように警察行政も亦この一点に向って集中して行くのであって、高等警察の廃止も警察のそうした集中過程の一産物に過ぎないのである。
二、自然現象と社会現象
現在で最も大きな問題は何と云っても東北地方の「凶作」飢饉である。新聞は毎日写真入りで東北地方農民の耐え難い生活を報道している。新聞は或いは宣伝のためにこの問題に興味を有っているのかも知れないが、とにかく新聞の「東北凶作救済運動」は天下の輿論を動かし、センセーションを捲き起こすのに成功したと云わねばなるまい。特に農村の娘が酌婦・芸妓・娼妓・女工・女給・女中などとして安売りされるということが、少なからず世間の男や女の興味を惹いたらしい。子女の安売は日本では何も今日に始まったことではなく、又必ずしも農村だけに限られている現象でもないのだが、農民のただの凶作やただの貧困ではジャーナリスティクに興味がないので、世間では之を人身売買や芝居の子役の形に直して、問題に色艶をつけようと力めているらしい。
この笛に合わせて起ち上ったものは、各種の婦人団体であって、愛国婦人会やキリスト教婦人矯風会、仏教女子青年会、などの会員は一堂に会して全国的な一大運動を起こすことになった。一体婦人団体というものが社会問題に対してどんなにシニカルで、従って時として問題が女や子供のことになると如何に突然とセンチメンタルになるものかということは、私が関西風害に就いて前にも云ったことだが、ここでも亦反覆して之を証明することが出来る。だが私は之を決して無意味だとか、まして悪いとか云うのではない。無論非常に立派なことなのだ。
だがこの婦人達の或る種の錯覚は是非とも訂正しておかなくては都合が悪い。農村の子女が安売されると云っても、無論この婦人達は女子供の売価が安い[#「安い」に傍点]ことに同情[#「同情」に傍点]しているのではない。女を売買するということが、不道徳[#「不道徳」に傍点]で、この不道徳
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