らでも挙げられるだろう。
農村の復興(尤もそういう言葉はあまり使われないようだ、稲がへし折られるのは、打ち見た処家が潰れる程に壮観ではないから、復興という言葉はあまりピンと来ないかも知れぬ)の方は之に反して一般の農村対策[#「農村対策」に傍点]の内に嵌め込まれる。旱・水・冷・繭安・害により農民の窮迫は云うまでもなくこの風水害によって愈々決定的になった。農村の被害は総額八億円の損失と見積られているが、その内二億五千万円はこの風水害によるもので、他の要因に較べれば風水害による打撃は比較にならぬ程大きい。だが農村の被害に対しては「復興」どころの問題ではなく、もっと絶望的な「対策」が必要なので、農村の風水害問題はこの一般的な農村問題に吸収されて了っているのである。――で復興[#「復興」に傍点]されるべきものとして残るのは矢張中小商工業だけとなる。尤も中小商工業が復興の特典を与えられるという場合には、口を利くものは実は大商工業夫子自らなのだが。
処でこの農村対策というものも亦、実は矢張金融問題に過ぎないのだ。そして貧農民は他ならぬこの農村低金利資金のおかげで、×××××られたり××××になったりしているのである。だから農村の農民にしろ都会の無産者にしろ、金を借りてウマく行く場合はいいとして、借りても返す見込みのないものは、遂に復興[#「復興」に傍点]の恩典には浴したくても浴せないわけになるだろう。銀行の手先である農村高利貸から低利資金(?)を借りるにしても、又は例えば産業組合の金庫から借りるにしても、話しはつまり同じなのである。――で金を借りる能力さえないこういう連中は、内務省の御厄介にならなければならないのである。内務省は必ずしも風水害地に限らないが、現在の各種の災害の罹災関係地方に於て、地方地方に適した土木匡救事業のための予算を臨時議会に提出するという。議会はいつ開かれるのかまだ決定していないらしいが、内務省は拙速主義でその成案を得ることにするそうである。つまり風水害地に於ける金融無能者は、復興の特典にあずかる代りに地方的カード階級に登録される特典を授けてやるというのである。
文部大臣は罹災小学校に国庫補助を約束したらしいが、そういう建物や物件の復興費は今度の臨時議会で大いに予算を取ることが出来ようが、人間自身の生活の復興の方は一体どうなるのだろうか。尤も文部省は被害学童へ七十万円の食事・被服・学用品・の復興費を予備金から支出したが、子供はそれでいいとして大人の方はどうなるのか。
世間の人達は仲々皮肉に出る。こうした復興の欠陥の非を打ち鳴らす代りに、為政者に対する面あてとして、直接罹災者の人間自身に同情の涙をそそぐのである。上は富豪・新聞社・諸団体から、下は一介の匹夫匹婦に到るまで、金銭や物資による救助を惜まない。して見ると生活自身の復興は、専ら社会の麗わしい隣人愛に放任されている訳だ。無論こう云っても、同情は確かに道徳的だ。
最後に、同情に就いての一つのエピソードを読者は思い起すだろう。パパママ論で、男を挙げた松田文相は、モダーン生活や小市民生活に対しては極めて同情能力の乏しい人のようであるが、丁度×××や×××型の「豪傑」が常にセンチメンタルであるように、涙脆いという意味では、仲々同情に富んでいる人のようである。京阪地方の風水害罹災学校を視察しながら、手ずから負傷した児童をいたわってやったり何かしていた文相は、児童への同情が昂じた余り、四十一名もの災死児童を出した京都西陣小学校で、児童を横のコンクリートの建物の中に避難させなかったのは明らかに校長の失態だ、と繰り返し断言したというのである。それから災死児童の父兄に就いては、暴風警報が出ている朝に子供を登校させる親は馬鹿者だ、と放言したというのである。
市教育部ではすでに、不可抗力によるもので、校長及び職員には責任はないと決定していた処なので、市当局も文相の言葉を遺憾とするし、西陣小学校の校長以下全職員は憤慨して、進退伺いをつきつけた。西陣学区会は職員側を支持しているので、結局進退伺いは却下されるだろう。
だが云うまでもなく責任は校長などにあるのではなくて、学校建築自身の問題の内に横たわるのである。同情などという心丈けの道徳の代りにもっと科学的[#「科学的」に傍点]な道徳を知っている日本建築会は、すでにこれよりずっと前に、役員を召集して小学校建物の倒壊の批判を行ったが、その結論として、責任は監督官庁が負うべきだということになったのである。そして大阪府当局も亦この責任を承認したようである。尤も責任を取って進退をどうこうするというのではなく、そういう進退問題になれば、「弱い商売」の校長さん達が背負わされるのだが。校長さん達こそ同情されて然るべきものかも知れない。
倒壊し
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