のではないだろうか。カイゼルのものはカイゼルに返せ、だから仏教もカイゼルに返すべきである。諸君はそうやってカイゼルの文化的代官になれるのだ。
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読者へ。――編集者が伏字にしたり削除したりした部分が明示してある時はいいのであるがそうでなくて全く断りなしに数行削除になっているような個処が之まで時々あった。そのため或る種の誤解を受けた場合があるかとも思われる。よろしく御判読を乞う。――戸坂
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[#地から2字上げ](一九三四・七)
[#改段]
三位一体の改組その他
一、三位一体の改組
満州国の傅儀執政が登極し給い、満州国が帝国となった時、駐満大使が設置されて、関東軍司令官が当分兼任することになった。之に関東州長官を加えれば、所謂三位一体制になるのであって、曽つては関東長官と満鉄総裁と総領事とが三位一体(?)だと云われたものだが、その頃から見れば、情勢は随分変ったものだと思う。満州が独立国となり、日満鮮人の合衆国となり、それが更に名誉ある帝国にまで旬日の内に進化して了ったのは全く、大日本帝国軍部の遠大な計画に負うのであって、少くとも吾々大日本民族にとっては之が極めて慶賀すべき現象であることは、私が更めてここに証明するまでもないことだ。
昔の三位一体とは異って、今度の三位一体はだから、甚だ張り合いのあるものであって、それだけに今日この三位一体が重大な問題となるわけである。と云うのは結局に於て関東軍司令官を中心とするこの三位一体は、元来が非常時的行政形態、戦時軍治主義だったわけであるが、この関東軍司令部を、そのまま「平時化」する必要がどこかにある以上、この戦時三位一体制は当然改廃されねばならなくなる。
満州に於ける治安維持の確立期はすでに終り、匪賊も六分の一に減少したから(尤も一二日前にも安東付近にまで匪賊が出没したそうだが)、日本帝国の対満州国行政(?)が平時化される必要の生じて来たことは寧ろ当然であって、なぜわざわざ特に、元来が「戦時的」な筈であった満州軍司令部をば「平時化」する必要があるのか、もう少し初めから「平時」に適した機関を選んではなぜ悪いか、というような、質問は全く野暮だ。それにそういう質問は全く忘恩的なのだ。満州帝国が建国されたのは関東軍司令部のおかげだということを吾々は片時も忘れてはならない。この帝国は他の帝国と異って正に関東軍司令部が造ったのだ。
さてそこで、この在満機関三位一体制の改革案が、この十日間程で頓に出揃うことになった。第一は陸軍省の理想案であるが、それによると関東軍司令官を総督制にし、満州経営上軍事行政司法外交一切の権限を与えようとする案で、無論今まで通りの関東長官も満州国大使も要らなくなるわけだが、併し現在の関東軍司令官は統帥権にぞくするもので、全く軍事的なものの筈だから、少くとも之を平時化するように改正する必要があるわけで、もしそれさえ手続きが済めば、完全な一位一体制の在満機関が出来ようというのである。
処が之では折角の満州帝国が朝鮮並みに取り扱われることになりそうで、満州国独立の承認を世界に向って強要している手前、一寸具合が悪いではないか、と気のつく者もいたらしく、陸軍省ではこれの代案として、軍司令官と駐満大使との二位制にし、大使を特別に外務大臣から独立させて総理大臣直接の監督下に移し、内閣に対満事務局と云ったものを置き、大使をして外交と行政とを営ませようというのである。無論当分駐満大使は関東軍司令官と同一人物である予定だから、前の理想案代案としてはまず結構かも知れない。云うまでもなく関東長官は無いに等しい。そして駐満大使と云ってもただの外務省の大使などではない。
処が第一納まらないのは外務省だ。大使はあくまで大使でなくてはならぬ、即ち外務大臣の管轄になくてはならぬ。なる程関東長官は関東州内に権限を制限されるべきで、関東州外の満鉄監督権や付属地行政警察権は当然駐満大使に帰するのは当然だが、その大使自身が外務省にぞくさなくてはならぬ。そうやって、軍司令官と駐満大使とからなる本当の一位一体(たとえ同一人物が兼任しても管轄が二重になる)が出来るが、それが最も妥当な案だ、と外務省は考える。
旗色の悪いのはそこで拓務省である。一体拓務省は満州を植民地と考えたがる悪い癖があるのだが、外務省案は之とは反対に満州を独立国として、取り扱おうとする。その結果関東長官の権限は、みじめにも縮小され、それに続いて、拓務省廃止案さえ提出される。ただでさえ影が薄くて他の植民地の監督に就いてさえ色々の疑問が起きる拓務省としては、之は我慢が出来ない。外務省案にも陸軍省案にも絶対不賛成だというのである。だがそれに代る代案はまだ具体的にはなっていないらしい。――
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