っても、有為な青年がとにかく十七人しかいなかったのだとすれば、怒っても仕ようがないのではないかと私は思っている。
満州国官吏は無論男の場合であるが、それが女の場合になると、満州サービスガールがある。今年の一月に親切で有名な東京飯田橋職業紹介所の鳴物入りの宣伝で、之は千人程の中から選ばれた三十二人の代表的インテリガールが、「帝国ホテルよりも大きな」ハルピンのアジア・ホテルのサービスガールとなって送られて行った。この有為な女子青年達からなる「挺身隊」は無論、東洋の到る処に進出して国威を発揚している例の種の娘子軍などではない筈であった。当人達や父兄達は云うまでもなく、直接関係のない吾々世間人もそう信じていたのである。何しろ紹介者が歴とした例の有名な飯田橋の職業紹介所であるし、先方は外でもない満州国の旅館だというのだから。それに満州国当局の後援のあるホテルであったとしたなら、誠に肩身の広い申し分のない就職口と云わざるを得ない。
処が三十二人の内十四人を除いて十八人が、ションボリと最近帰って来たのである。ホテルの主人と争議をかまえて、解職になり、職をさがしても思わしくないので、飯田橋の職業紹介所の手を通じて、並に就職口を内地に見付けるために帰って来たというのである。
十八人の内の一人が云っている、「ホテルの仕事が全然私達の個性(筆者註・「人格」の間違いだろう)を傷けて仕舞ったんです、まあいって見れば宿屋のお女中さんと同じなんです、私達が向うへ着いたのが一月の十八日、ホテルは二十五日に開店となって或る日、向うの偉い人達を呼んで盛大なお祝いがホテルにあったんですが、その夜始めておそくまで全部お酒のお相手をさせられたのです、サービスといっても、お客の御相談、御接待役位にしか考えていない私達がビックリしたのも当然ですわ……」(東朝五月四日夕刊)。
ホテルのサービスガール、之を訳せば「宿屋のお女中」に外ならない筈ではないか。だが一寸待って欲しい、他の一人が云っている「経営者水谷さんと職業紹介所と私達と三方に認識不足があったわけです、でも私達が夢を抱いていたと責められても、紹介所を通じていわれたのが、帝国ホテルより大きなホテルで、そこで事務員店員、私達がそれだけの想像をしても仕方が無いでしょう、紹介所では今になって水谷さんが余りに大きくいいすぎたといっていますが、満州ではああいう
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