郎氏の台湾土産も粋な画だ。
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 工芸室は国展の名物で、いつも楽しみにして出掛けるが、良くて安いものは、招待日の朝出掛けて行って、既に赤札とはどう云うわけだ。
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 今年の工芸は種類が多くて賑かだ。安い絨氈が傑作である。芹沢と云う人は立派な図案を創る人だ。
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 春陽会は国展から見ると、ひどくダラシがない。もう少し近頃流行の厳選に願いたいね。
 洋行帰りの下手糞ばかり沢山あっても景気は出ない。
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 別付貫一郎と云う人の伊太利風景数点が一ばんよろしい。会友中の洋行帰りではこの人が良い。鳥海青児はいかにも汚い。加山四郎はいかにも拙い。
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 出品者の洋行帰りじゃ、画因が古臭くて、乾燥しているが、大森啓助と云うのが、腕は相当たしかだ。他の連中は申合せた様に、南仏の巴里郊外を描いて、まごまごした筆の下手さ加減は、どうだ。外国風景の色の奇麗さだけでは、もう観る方も惑わされはしませんよ。
 下手糞が面白がられる情なさ。
 と云うのはどうじゃね。近来画壇の一傾向を云い得て妙だろう。
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 春陽会と云うところは、恐ろしく会員の不熱心なところだ。長谷川昇先生一人気を吐いて、これに続くものは倉田白洋先生位じゃ。
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 元老株は、日本画、※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]画と遊び、壮年会員は一向にいい作を並べて呉れない。小山敬三氏一人が勉強している様だ。
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 妙だと思っていたら、新聞報ずるところは硲、小山の両中堅の春陽会脱退だ。この二人が脱けたら、春陽会にとって相当の痛事だ。展覧会も古くなればいろいろと事件がおきる。画壇のためには、起きた方がいいかも知れぬ。
[#地から1字上げ](一九三三・六)
[#改段]


 自由主義の悲劇面

   一、五・一五事件「発表」

 現内閣を非常時内閣とかいうそうであるが、ある人の説によると、それは、五・一五事件の処置をつけることを目的とする内閣という意味だそうである。この非常時現内閣にとって何より宿命的な五・一五事件が、丸一年間もの「慎重」な審議の揚句、やっと公表されることになり、同時に一般記事の掲載解禁となった。まことに御同慶の至りと云わねばならぬ。
 処でこの事件の発表の一日前、即ち五月十七日には、之も四年程前に起こった私鉄事件・売勲事件・其
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