Iな関係を取り上げることが、他ならぬ数学なるものの所謂先天性だったのである。(但しこの点多くの異論を期待しなくてはならぬが。)だからつまり物理学乃至力学が数学の適用を受けねばならぬということは、物理学が物質の最も一般的で又最も抽象的な関係から問題を提起して、之を次第により特殊なより具体的な物質の属性に及ぼすものだということであり、それを末端の方から見れば化学となるというわけである。
だが云うまでもなく一般的、抽象的な物質の属性から問題を発足させることは、その発足をいつもやり直さなければならぬということを約束する。より特殊なより具体的な物質の属性にわけ入って行った結果、もう一遍物質の一般的、抽象的な属性を抽象し直さねばならぬということが必ず出て来る。この現象は物理学の革命とか危機とかとして云い表わされる。相対性理論による空間・時間の観念の変革や、量子理論による因果律の観念の変革やが之である。
物理学乃至力学が最も精密な自然科学だというのは以上の消息を指すのであるが、化学となればもはやこの精密性は信用されていない。というのは他ではないので、化学は物質の諸関係を従来単に現象的にしか定式化し得なかったからである。処が生命現象、有機体を対象とする生物学になれば、愈々その精密性を失うものだと見られている。生命現象は極めて高度な複雑な物質の特殊な属性だから、その連関の研究はなおまだ現象的な観点に止まらざるを得ないのはやむを得ない。だが困難の原因はそれだけではないので、ここに新しく登場する個体という範疇があるからである。
物理学乃至化学のプロパーな場合には、個体という観念は何等科学的な範疇ではない。物理現象や化学現象は一つ一つの個体に単位をおく現象ではなかったからだ。物理学や化学が個体という範疇を必要とする場合は天文学や地理学となる。そこでは個々の名をつけられた物体が(もはや単なる物質や物質塊ではない)、太陽や火星や地球が、問題となる。(思うにかかる物理的、無機的、個体を個体なりに最も抽象的に一般的にテーマとするのはトポロギーなる幾何学だろう。)処が生物学になるとこの個体がその個体らしい特色を前提として登場して来る。生命現象とは之である。ここに生物学がすぐ様には精密になり得ず、又有機体が無機的自然と区別される標識も発見されるのである。
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