業技術の好景気(?)のために、自然科学者乃至技術家を志望する若いジェネレーションのインテリゲンチャは、次第に増加しつつある。之は高等学校の文科志望者と理科志望者との数を逐年的に比較しても判ることだ。処が実際は、技術界に於ても、この新進の技術インテリゲンチャ乃至若い自然科学者達の大部分を受け容れ得るだけの余地はないのである。少なくとも狭義国防予算が実施される以前の状態はそうだった。そこで自然科学研究室を中心とする若い技術家・自然科学者の、一種の失業層が発生した。之が極端な場合には、実際の失業者となるのでもあるが、多くは公認職業身分を獲得するための準備層又は停滞層として、自然科学に於ける擬似アカデミシャン群をなすのである。この擬似アカデミシャンは、既成アカデミーのアカデミシャンとは異って、世界大戦後の社会思想の訓練を多少とも常識として経て来ているばかりではなく、社会的矛盾を自身の生活の将来について直接知ることが出来るのだから、従っておのずから、元来ブルジョア・アカデミーの専有物であった自然科学をも、社会の思想的水準にまで持ち出すという役目を果すようになるわけだ。
 自然科学の将来ある充用の
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