い日本の自然科学、之がこの数年来、著しく思想化的傾向を帯びて来た、という点だ。その原因はどこにあるか。つまり科学論が、殆んど一切の現代諸科学に渡って、学術的な足場と社会的な思想的実在性とを得ることによって、現在の文化的時局の顕著なトピックとなり得たのは、何に原因するのか。
一等手近かな原因として誰しも挙げ得るものの一群は、物理学・物化学・生理学・心理学・等に於ける新しい卓越した理論の簇出である。物理学に於ける相対性理論と新量子論とはその典型であり、心理学乃至生理学に於けるゲシタルト理論や生物論に於ける全態説論議などが之に次ぐものだろう。之が普通の意味での認識論の課題を提出することによって、前進的な第一線の自然科学者達を国際的に一斉に、科学論の検討へ向わせたのである。事実科学論的な検討を加えなければ、変革的な理論が伴いがちな混乱を整理することが出来ないからだ。日本の自然科学者も亦、この国際的な動向によって動かされたのである。
相対性理論や量子力学のような理論物理学上の仕事は、純粋科学的な内容のもので、産業や生産技術とあまり関係がないように考えられるかも知れないが、勿論実際はその反対で
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