福と最も密接な関係を有っている。だが幸福に較べて遙かに社会的な特性を備えた観念であり、又もっとズット現実的で積極的な社会福祉の原理である、ということを予め注意しよう。と云うのは幸福なるものは元来一つの要請でしかなかったから、理想主義者の理想のように、由緒正しく真ともで肯定的なものであるには相違ない。誰が一体幸福を本当に否定する気になる者があろうか。それは丁度、社会運動をする者は誰だって人間の精神的自由を理想目的としていないものはないのと変らない。ただ困るのは、そういう理想目的を単に肯定[#「肯定」に傍点]しただけでは何物も始まらないということである。否そういう理想目的のただの肯定が却って現実の出発を妨げ又歪めるという点なのである。肯定的精神は大抵理想主義の精神なのだ。幸福も亦理想主義者のユートピアのようなもので、之をどんなに肯定したり強調したりしても、民衆はそれだけでは一向現実に於て幸福にならないのである。幸福となるための現実的な入口は、却ってもっと部分的な、もっと一面的な、云わば充分に周縁しない一種不完全な幸福観念にあるのである。もっと制限された、否定の可能性を欠かぬ処の、幸福観念で
前へ
次へ
全30ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング