ない筈である。それ故今の仮定に於ても、特殊なる対象の性格である存在はその対象が含まれる対象一般の性格である可能性によって優越されることは許されない。従って今の場合には、たとい、空間という対象――それは対象一般ではない――がその特殊なる対象としては存在の性格を有つが、対象一般としては可能性の性格を有つと云っても、空間の性格が可能性[#「可能性」に傍点]であるということにはならない。それ故この場合でも空間は対象論的「対象」であると云って了うことは出来ないのである。空間がかかる対象の一つであるという言葉を許すとしても、空間そのものの性格を第二として、空間がこの対象の一つであるという点だけを第一に取り出すのでなければ、――そして性格を第二に回すということがすでに性格の概念に矛盾する――、空間を可能性として性格づけることは出来ない筈である。
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* 〔Meinong, U:ber Gegenstandstheorie〕(”in Abhandlungen …“)S. 492−3.
** 同 S. 494.
*** 同 S. 488 参照。
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このようにして吾々の空間――それは常識的概念である――は対象論的「対象」の有つ可能性乃至 Sosein の性格を有つことは出来ない。かかる性格を有つことの出来るものはただ専門的空間概念の或るもの――幾何学的空間だけであるであろう。「数学は本質上対象論の一部である」、或いは寧ろ、「数学の対象は、対象論も亦その全体に渡って取り扱う固有の権利を有つ処の領野に、在るのである*」。即ち幾何学の対象である幾何学的空間は、対象論の取り扱うべき領野にぞくすることとなる。処がこのような「幾何学の空間」は彼に於ても亦決して「吾々の空間」ではない。「吾々の空間」は「実在的空間」であるか「空間直観の対象」としての空間であるかであるが、前の場合ならばそれは「存在」を持ち、又後の場合であるならばそれは「吾々の表象の内に存在する」のであると云っている**。空間は対象論的可能性[#「対象論的可能性」に傍点]をその性格とはしない。
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* 同上 S. 508 及び S. 509.
** 〔Meinong, U:ber die Stellung der Gegenstandstheorie im System der Wissenschaften, S. 92〕 参照。
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併し対象とは何の対象であるのか。「心理的生活」に対する、即ち凡ゆる心理的能力にとっての、対象である。事実対象論は意識の問題から派生した。吾々は最後に、空間概念が意識としての性格を有つかどうかを見よう。
幾何学的空間又は物理的空間に於て人々は導き出されたる、専門化されたる、空間概念を見出す。之に対してより根柢的にしてより根源的なるものとして、人々が普通掲げるものは、空間表象[#「空間表象」に傍点]である。人々は無言の内に、空間を空間表象として問うことをばその最も尤もらしい問い方であると思い做しているであろう。空間表象と云っても人々の理解する処は決して一定しているのではない。多くの心理学者達は之をより基礎的な知覚乃至感覚から導き出そうとした、之に反して空間表象が導き出されることの出来ないそれ自身独立の根源性を有つ知覚であることを明らかにしたのはシュトゥンプフの功績であった*。何れにしても空間表象はこの場合空間知覚[#「空間知覚」に傍点]として取り扱われる。この場合、空間は知覚の性格を有つ。之は心理学的空間表象[#「心理学的空間表象」に傍点]と呼ばれて好いであろう。空間表象を知覚から分離したものはカントである。カントによれば空間表象は第一に純粋直観[#「純粋直観」に傍点]である――カントの言葉に従うならば「形而上学的[#「形而上学的」に傍点]」空間表象[#「空間表象」に傍点]。第二にそれは直観形式[#「直観形式」に傍点]と考えられる――「先験感性論的[#「先験感性論的」に傍点]」空間表象[#「空間表象」に傍点]。第三にそれは形式的直観[#「形式的直観」に傍点]であることが明らかにされる――「先験論理学的[#「先験論理学的」に傍点]」空間表象[#「空間表象」に傍点]**。何れにしてもカントに於ては空間表象は空間直観[#「空間直観」に傍点]として取り扱われる。このようにして空間概念が一つの直観として性格づけられる時、このことは最も普通であり又最も正当であるらしく思われるであろう。処が空間が知覚であるにせよ直観であるにせよ、それが空間表象である以上は、空間が常に空間意識[#「空間意識」に傍点]であることを注意しなければならない。それであるから
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