れる。之に反してハムレットを語るために沙翁を語るならば今度は沙翁が per accidens に、そしてハムレットは per se に取り扱われるであろう。もし神[#「神」に傍点]を理解するためにそれに付随して偶然に空間が問題となるならば、そしてその限り空間の問題が解かれるならば、之によって明らかとなるものは、空間の性格ではなくして実は神の性格でなければならない筈である*。無論偶然に解くことによっては問題が全く解けないと云うのではない。却ってそれが一応解かれ得るが故に解き尽し得たかのように思い做す危険を人々は有つのである。偶然は性格を逸する、それが見当違い[#「見当違い」に傍点]である。このような誤解の最も一般的なものは、一つの哲学的体系を組織するのを目的として、その視点に立って空間概念を云わば義務的に取り入れるか、又は之を利用する態度である。かくすれば空間は例えば論理的範疇[#「論理的範疇」に傍点]として説明[#「説明」に傍点]されたり、或いは光として説明[#「説明」に傍点]されたりすることが出来る**。――処が吾々は空間を他の何物かによって説明[#「説明」に傍点]するのではなくして、空間そのもの[#「そのもの」に傍点]を分析[#「分析」に傍点]することを欲する。第二に空間概念はアナロギーとして理解されてはならない。例えば「色の幾何学」「音の幾何学」などに於ける色・音の空間、人々が好んで問題にしようとする絵画に於ける空間、その他任意の何々に於ける空間など(そしてヘルバルトの英知的空間の如きも亦)、何処までが本来(per se)の空間概念であり、何処からがアナロギーとしての空間概念であるかを、注意深く見分けることが必要であるであろう。アナロギーとしての空間は之を常識的空間概念と混同してはならない。かくて空間概念は常にそれ自身として、即ち他の概念に従ってではなく空間概念自身を支点として、取り扱われなければならない。――空間概念だけを前景に持ち出し、之を独立の問題として正面的[#「正面的」に傍点]に臨む時に始めて、空間概念の分析[#「空間概念の分析」に傍点]の意味は成立するのである***。
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* 空間を神に付属せしめて理解することは昔から行なわれた処であるが、その最も著しいものはヘンリー・モーア、及びニュートンであろう。
** 空間を範疇として始末した代表的なものはコーエンである。又空間を光と同一視することはプロクロスに始まる。後に至って Witelo が之を承け継いだ。
*** 空間概念の分析が「空間の演繹」と正反対であることをこの機会に注意して置こう。後者の代表者は ”geistreich“ なるシェリングである、彼は空間(それは又物質である)を物理的諸力から構成[#「構成」に傍点]した。処がかかる構成こそは分析の正反対である。
[#ここで字下げ終わり]
空間概念はその性格に従って分析されねばならない筈であった、何がその性格であるか。空間という常識的概念が要求される時、その時は必ず存在[#「存在」に傍点]を問題にしている時である。存在という概念には様々の解釈が施されるであろうが、茲では最も平凡な一つの存在――空間的存在――をさし当り理解しておけば充分である。この意味に於て机は存在するが机の表象は存在しない(但し表象されたる机は尚或る意味に於て空間的存在ではないかという疑問は一応尤もであるが之は最後に解かれるであろう。吾々の今云おうとする区別はこの疑問と無関係に明らかである)。この机と机の表象とを区別しようと欲する時、実際上、必ず空間概念が要求されるのである。人々は或いはこう云って反対するかも知れない、実在と表象との区別は、或いは主観の普遍的必然的構成であるか否かによって、或いは自我の奥底に於ける統一であるか否かによって、始めて与えられるのであって、其処に空間を持ち出すことは何の説明にもなりはしないと。けれども再び吾々は繰り返そう、吾々の云う空間概念は常に一つの常識的概念である、それは実在と表象との区別を哲学的に説明[#「説明」に傍点]することは出来ないし又しようとも思わない、ただ実在と表象とを人々が普通[#「人々が普通」に傍点]何によって区別しているかということだけに答えることが出来ればよいし、又それだけには答える義務があるのである。人々は実際机と机の表象とを区別する為に[#「為に」に傍点]空間概念を要求[#「要求」に傍点]するのである。人々は両者の区別の深遠なる――そして専門的なる――意義を教えられるよりも、両者の区別を確保することが更に必要[#「必要」に傍点]なのである。この必要を満足せしめるものが人々の持つ[#「持つ」に傍点]、従って吾々の求める[#「求める」に傍点]、空間概
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