理的であった――であろう、把握的概念の与り知ったことではない。
今や吾々は理解(把握)を借りて之に基いて概念(把握的概念)を説明することが出来る、そのための法則を今吾々は掲げた処であった。把握は静観的であったばかりではなく実践的であった。故に概念は静観的[#「静観的」に傍点]であるばかりではなく実践的[#「実践的」に傍点]でなければならない。之は人々の耳には不可思議に響くかも知れない、実践性を有った概念とは(実践的なるもの[#「実践的なるもの」に傍点]に就いての概念ではなくして明らかに実践性[#「実践性」に傍点]を有った概念である)。併し今の場合の実践的は実践を必然ならしめる契機となることが出来るという意味であったのを憶い起こさなければならない。概念が行動するなどと云うのではない。尤も単に言葉[#「言葉」に傍点]を以て表現[#「表現」に傍点]するという意味での把握的(表現的[#「表現的」に傍点])概念だけを概念と考えるならば、それが実践的であるという言葉は、今云った意味に於いても、まだ軽率であるに違いない。併しかかる表現的概念を適当に[#「適当に」に傍点]――その日常性にまで――拡張することをこそ、吾々は把握からの口授によって教えられるのである。その時概念は単に言語的に表現[#「言語的に表現」に傍点]するものであるばかりではなく、実践的に表現[#「実践的に表現」に傍点]する――行動する――ことを必然ならしめる契機となるものでなければならない。実践の根柢には把握があり、その限り又把握的概念があるのである。次に、把握は理論的であったと共に情意的であり得た。故に概念は理論的[#「理論的」に傍点]であると共に情意的[#「情意的」に傍点]でなければならない(把握的概念は理論的[#「理論的」に傍点]ではあり得る、併しそれは無論論理的[#「論理的」に傍点]であることとは異る)。再び人々は疑わしげに聴くであろう、概念が情意的であるとは。一体そのようなものが何故概念の名に値いするのか、と。けれども人々を不意に襲わないためにこそ、吾々は理解の説明の迂路によって概念を説明しようとするのである。例えば人々は友人の友情を理解しないであろうか。併しこの理解は理論的であるか(吾々は常に日常語を取り扱っているのを忘れてはならぬ)。彼の友情を理解することは彼の友人となることであるが、それは彼に対して友情を持つことである外はあるまい。そうすれば彼の友情を理解することは彼に対する友情そのものでしかあり得ない。人々は理論的[#「理論的」に傍点]友情を持つと云うか。処で理解の対自性が概念であった。友情の理解の対自性は友情の概念でなければならない。尤も友情を持つことと友情の概念を持つこととは別であると云うであろう、明らかに別である。ただ人々によれば前者が恐らく情意的であるに対して後者が恐らく理論的である迄である。吾々は何も理論的概念を否定しなかった。ただ之に限らなかった迄である。かくて把握的概念は情意的であり得る。
之が吾々の「概念」である。それは或る種類の哲学に於て用いられて来ている術語「概念」ではない。もしそのような術語として之を理解するならば、吾々の概念の説明はそれ自身一つの矛盾の外ではなかったであろう。之に反して吾々の概念は出来るだけ通俗的に、日常語として理解されなければならない。その時日常語「理解」が許される処には又必ず概念という言葉が権利を有つ。所謂概念をあのように悪む芸術に於てすら作品は一つの概念の(或いはイデーの)展開として説明される、吾々はそれを何か仔細げにいぶかる理由を有たない*。
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* 概念とはそれでは要するにイデーであるのか、と人々は尋ねるかも知れない。けれどもイデーは理念[#「理念」に傍点]としても観念[#「観念」に傍点]としても概念[#「概念」に傍点]としても意味を有つ。その問いは問題を単純化する代りに混乱させるに過ぎない。それに又イデーという術語[#「術語」に傍点]を以て吾々の概念を説明することを求めること自身が、無意味である。
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人々は最後の疑問を提出し得るかのように想像するに違いない。それはこうである、なる程概念をそのように「あれもこれも」を意味するものと仮定するのは勝手であるが、少くとも理論的な概念と情意的な夫とを区別するには区別の標準がなくてはならないが、その標準が再び従来用いられて来ている「概念」の有無によって与えられるのではないか、と。人々がこれを理由として吾々の概念――それは吾々が仮構したものではなくしてただ吾々が日常生活に於て指摘した事実に外ならない――の困難を見出したと想像するならば、それは完全な誤りである。日常語としての概念の内に従来の――哲学的術
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