出来ない。即ち今の場合の原因は物理的な原因ではなくして心理的な仲介者を意味しなければならぬ。シュトゥンプフは之を「心理的刺激」と名づけた。然るにシュトゥンプフの証明しているようにこの心理的刺激という概念は結局許すことの出来ないものなのである(S. 93 ff.)。従ってヴェーバーの試みも依然空間表象の発生を説明することは出来ない。却ってそれは空間表象なるものを始めから想定した上で加えられた説明に過ぎぬと云わねばならぬ。さて私は四つの種類の考え方の内最初の三つのものの正当でないことをばシュトゥンプフと共に知ることが出来た。共通の欠点は何れも空間表象の発生を説明するに当って寧ろ却って空間表象を予想しているという循環にある。さて之は次のことを裏書きするものである、空間表象の発生は到底説明することが出来ない、云い換えれば空間表象は根源的でなくてはならない、ということ。
 シュトゥンプフは更に第三の種類の考え方の一例としてロッツェを批評する。シュトゥンプフの解釈に従ってロッツェの所謂局所徴験を一言しよう。例えば種々の色が空間上何処かに位置を占めるというようなことはどうして起こるか。解剖的に位置を異にした神経が刺激を受けるからであるとするのは云うまでもなく充分ではない(これはヴェーバーに対する批評を見れば明らかである)。ロッツェは異った位置――それは網膜の上の点によって代表される――には夫々その位置に固有な感覚乃至は神経過程が備わっているとする。之が局所徴験に外ならない。局所徴験が眼球の適当な運動や或いはその運動の感覚や乃至は運動しようとする努力などによって表わされるというが、何れにしても定位 Lokalisation を与える原因がこの局所徴験なのである。之がロッツェの思想である。さてシュトゥンプフの解釈によればこの定位がとりも直さず空間表象に外ならない。従って局所徴験は空間表象の「原因」であることになる。而も「原因」はヴェーバーの感覚圏の場合と同じ理由によって心理的刺激という困難な概念に帰着して了う。依ってロッツェの考え方も空間表象の発生を説明するには不適当である、というのである(S. 86 ff.)。之に対してロッツェ自身次のように云うて反駁している、「私の試みは感覚の定位[#「定位」に傍点]ということに終始するのであって」「吾々が如何にして空間表象に来るか[#「空間表象
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