であるから(思惟は常に同一の機能であると仮定して)。それ故何れにしても幾何学にはそれに固有な直観がなければならない。幾何学的直観、それが今までに取り出すことの出来た名称である。無論この名称に相当する概念内容が何であるかは積極的にはまだ何処にも示されてはいない。
三
私は問題の方向を変えて人々が一概に空間表象と云い慣わしているものの性質を検べて見たい。シュトゥンプフは空間表象に就いての考え方を次の四種類に区別した(C. Stumpf, Ueber den psychologischen Ursprung der Raumvorstellung)。一、空間表象は任意の単一な感覚内容(〔Sinnesqualita:ten〕)から生じるものであって、空間という特別な内容があるのではない、とするもの。二、空間表象という特別なものがあってそれが特殊な感覚――運動感覚など――の性質である、とするもの。三、空間表象という特別なものがあって而もそれが少くとも直接には感覚から生じるものではない、と考えるもの。四、空間表象という特別なものがあって而もそれは他の感覚内容――色などの――と相俟って或る不可分な内容の部分にすぎない、と考えるもの、の四種類である。私は今シュトゥンプフに従ってこの一つずつの例に就いて考えて見る必要がある。ヘルバルト――第一種類の一例――によれば吾々は眼又は指を動かすことによって一つの続起する表象の系列を得る。そして現在知覚されつつある表象が最も強くこれに先立てば先立つ程他の表象は弱い。今眼又は指を動かし返す時、記憶に残っている以上の系列が再び呼び起こされ而もその強さの順序は前の順序に相当するであろう。感覚内容のこのような続起がとりも直さず空間である、という(S. 31)。なる程空間表象が発生する条件は之によって云い表わされているかも知れぬ。併し条件が直ちに空間表象そのものとはならぬであろう。このような条件に従う処の条件そのものではないものがなければならぬ。この点から見てこの考え方は空間表象の発生そのものを説明することは出来ない。空間というものを予め想定した上で始めて許される考え方である。而もシュトゥンプフの批難するように例えば時間を取って来るにしてもヘルバルトの空間に就いての説明をそのまま繰り返すことが出来るであろう。即ちこの条件を充すものは空間だけで
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