実験こそ人間的実践の、自然に対する働きかけの、尖端だった。模写の第一段階であった感覚乃至知覚そのものが実は単に受動的なものではなくて、認識・模写する社会的人間主体の主体による活動の、最初の段階に他ならなかった。
 でこう見て来ると、反映・模写は主体の積極的な能動的な実践的活動によって、初めてその実際内容を得るのだ、ということになる。無論この一切の主体的な――主観の――活動は、物そのものを有りのままに把握するための活動でこそあれ、任意の主観的な作為を弄することによって、物そのものの有りの儘の把握から独立し離れて行こうがためではない。模写という認識の直接さ[#「直接さ」に傍点]、その真実さ[#「真実さ」に傍点]をより確保するためにこそ、この主観の実践的な能動性が、媒介者[#「媒介者」に傍点]となって介入し、こういう手続き[#「手続き」に傍点]・手段[#「手段」に傍点]・方法[#「方法」に傍点]を用いて、間接的[#「間接的」に傍点]にこの直接[#「直接」に傍点]さに至りつこうとするのである。この直接[#「直接」に傍点](Unmittelbar)さが、例えばカントに於ては物自体による心の触発と
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