在的な、云わば媒質(メジウム)のない、直接的同一が、ここに設定される。両者はここで、実在的には離れているが、それにも拘らず無媒質的に直接している。――処で鏡と原物との関係が丁度それであって、原物は鏡から物理的に離れているにも拘らず、否物理的に離れていることによって初めて、鏡に像となって反映され得るのである。――だから、意識が存在を模写反映し得るという事情は、それ自身自然の宇宙時間的発達に基く結果であって、単に事実上や理論上の仮定[#「仮定」に傍点]として想定されねばならないだけの関係ではないのである。
だが、以上は知識=認識ということが取りも直さず模写・反映ということに他ならないという、認識乃至模写という観念[#「観念」に傍点]、乃至は言葉[#「言葉」に傍点]の説明であって、まだ必ずしも、そのものの実際の機構の説明ではない。――さてそこで、カントによれば物そのものが主観を触発した結果が感覚だというのであった。ここに模写なるものの第一段階があるのである。つまり模写なるものの内容は、まず感覚として、或いは感覚から、始まるというのである。
尤も感覚という心理学上の概念は今日では必ずしも
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