尤も知識・認識の問題は精密に云えば無論ベーコンに始まるのではない。云うまでもなくそれはルネサンスの初期にまで溯る。一代の碩学アルベルトゥス・マグヌス(大アルベルトゥス)や理想家のカンパネラやの名を忘れてはならぬ*。にも拘らず知識という思想界のこの新しい問題を、一身に背負って立つものは第一にベーコンであったのである。処でホッブズを経てこのベーコンに連なるものが、かのロックの経験論だった。――かくて近代哲学によって、知識の問題は、ロックの経験論と、(ロックに正面から取り組んだ)ライプニツが代表する合理主義との、二つの側面から取り上げられた。大陸のこの合理主義が、エリザベス時代のイギリスの新進ブルジョアジーの認識観念であった経験論を、大陸風に或いは宮廷風に変容したものに他ならなかったということは、この際注目に値いする。
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* ルネサンス以来の知識問題研究の歴史に就いては、E. Cassirer, Das Erkenntnisproblem, Bd. I が貴重な研究である。但しここでは近世哲学の発端は、観念性の尊重という処におかれているから、吾々の
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