ョアジーの個人的自由主義を社会的立脚点にしたことは今更云う迄もないが、一方に於て彼の富国論はアリストテレスの『ニコマコス倫理学』と『政治学』とに端を発していると共に、他方に於てはスミス自身の倫理学(著書 The Theory of Moral Sentiments)乃至哲学と根本的な連絡を持っている*。スミスの思想と理論とがD・ヒュームの哲学に負う処の多いのはスミス自身が語る通りだ。
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* スミスは分業の原理を論じて云っている、「如上幾多の利益を生ずる此分業なるものは……人性内部の一種の性癖より、頗る遅緩に且つ漸進的ながらも、然も必然的に発生し来れる結果に外ならず。……或物を他の物と取引し交換し交易するの性癖即ち是なり。……此性癖は一切の人類に共通にして、他の動物には全く之を見ざる所に属し、……例令ば吾人が毎日食事を為すを得るは、屠肉者、醸造者、又は麺麭製造者の恩恵に依るに非ず、此等の人士が各自其利益を思うが為に外ならず。吾人は此等人士の慈悲に訴えずして其自愛心[#「自愛心」に傍点](Self−love)に訴え、吾人自身の必要を告げずして此等人
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