schke, Die Gesellschaftswissenschaft, 1859.――これは社会学論の古典である。
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 云うまでもなく今日のブルジョア講壇政治学は表面上殆んど何等(ブルジョア)哲学と関係がないので、それは主として十七世紀末のイギリスの政治学者達による政治・法律乃至国家の経験科学的な研究の結果であるが、併し十七世紀のイギリス政治学者の代表者であるジョン・ロックは、同時にイギリス経験論哲学の最も重大な代表者であったことを思い出さねばならぬ。――法律学や国家学も亦略々同様な対哲学関係を持っている*。社会科学全般に根本的な影響を与えた自然法[#「自然法」に傍点]は、それ自身哲学上の一つの主張に他ならなかった。之に続いて根本的な作用を全社会科学に及ぼした歴史学派の歴史主義[#「歴史主義」に傍点]も亦一つの哲学的立場に直接連絡している**。今日の市民的法理学や国家理論やが、哲学的意識を抜きにして意味を有たないことは、今更説明を必要としないだろう。
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* この点に就いては Sir F. Pollock, History of the Science of Politic の参照が便利である。
** 歴史主義に就いては Troeltsch, Historismus.――K. Mannheim, Ideologie und Utopie.――H. Freyer, Soziologie als Wirklichkeitswissenschaft(邦文解説あり)等参照。
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 倫理学や道徳科学(Moral Science)が正当には社会科学の一部分(イデオロギー理論)にぞくさねばならぬということは、相当広く認められているだろう。だが之が同時に今日のアカデミーでは哲学の内に数えられていることも忘れてはならぬ。――倫理学や道徳科学や又道徳哲学そのものは今大した問題ではないが、之が近世に於て最も華々しい発達を遂げたイギリスの道徳理論家達にとっては、こうした科学乃至哲学が実は、政治学・国家学に直接連続していたものだった。そして何より大事なのは、之がブルジョア古典経済学の起源と最も緊密に結びついていたことである。A・スミスの古典経済学がフィジオクラットの経済理論の必然的発展であり、ブルジョアジーの個人的自由主義を社会的立脚点にしたことは今更云う迄もないが、一方に於て彼の富国論はアリストテレスの『ニコマコス倫理学』と『政治学』とに端を発していると共に、他方に於てはスミス自身の倫理学(著書 The Theory of Moral Sentiments)乃至哲学と根本的な連絡を持っている*。スミスの思想と理論とがD・ヒュームの哲学に負う処の多いのはスミス自身が語る通りだ。
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* スミスは分業の原理を論じて云っている、「如上幾多の利益を生ずる此分業なるものは……人性内部の一種の性癖より、頗る遅緩に且つ漸進的ながらも、然も必然的に発生し来れる結果に外ならず。……或物を他の物と取引し交換し交易するの性癖即ち是なり。……此性癖は一切の人類に共通にして、他の動物には全く之を見ざる所に属し、……例令ば吾人が毎日食事を為すを得るは、屠肉者、醸造者、又は麺麭製造者の恩恵に依るに非ず、此等の人士が各自其利益を思うが為に外ならず。吾人は此等人士の慈悲に訴えずして其自愛心[#「自愛心」に傍点](Self−love)に訴え、吾人自身の必要を告げずして此等人士の利益を告げ、以て此等の人士より其供給を受くるなり」云々(『国富論』――岩波文庫版、上巻、二四―二六頁)。
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 即ちスミスによれば、社会に於ける労働生産力の根本条件をなす分業は、自愛心という人間性[#「人間性」に傍点]に、それ自身経済的な、或いは「経済人」的な、人間性に、基くというのである(丁度、道徳が同情[#「同情」に傍点]という人間性に基くように)。スミスの古典経済学の理論体系上の基柢は、だからその人間性論[#「人間性論」に傍点]にあると云わねばならぬ。処がこの人間性(Human Nature)の理論こそ、十七―十八世紀にかけてのホッブズ以来のイギリス道徳哲学・道徳学・倫理学(実はイギリス固有の代表的哲学)の共通な根本問題であった。例えばスミスの先輩D・ヒュームの A Treatise of (on) Human Nature の如き。
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 最後に、一般の社会思想(ユートピア共産主義・無政府主義・所謂国家社会主義乃至ファシズム・科学的社会主義等)が、各種の社会科学と歴史的に又理論的に如何に密接な連関を持つかに就いて、説明を必要とはし
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