ノもなるが、本当の個人である各個人[#「各個人」に傍点]にとっては、その意志の自由とは独立に発達する。この生産手段は超個人的に、社会的に、客観的[#「客観的」に傍点]に、歴史的発展をなすものとして、言い表わされねばならない。之によって決定される生産力は、単にその材料が物理学的(例えば機械・道具・工場)乃至生物学的(人間的労働力)物質[#「物質」に傍点]を根柢としているからばかりでなく、又今言った客観的[#「客観的」に傍点]だという意味からも、物質的[#「物質的」に傍点]でなければならないわけである。生産力は一つの唯物論的[#「唯物論的」に傍点]概念でなくてはならない。
 この物質的な生産力の与件は、社会に於ける一定の生産様式[#「生産様式」に傍点]を造り出し、この生産様式がそれに対応する一定の物質的生産諸関係[#「物質的生産諸関係」に傍点]をなり立たせる。この生産諸関係が、所謂経済[#「経済」に傍点]関係と呼ばれる機構の本質であり、それが社会関係[#「社会関係」に傍点]の基礎建築・下部構造をなす。ここに社会の物質的地盤[#「物質的地盤」に傍点]が横たわる。――経済学[#「経済学」に傍点]はここに成立する。
 社会に於ける生産諸関係は、財産の所有関係[#「所有関係」に傍点]を伴って来る。今この所有関係が社会に於て、個人相互が承認すべき公共的な一関係として、意識化[#「意識化」に傍点]されると、それが法律制度[#「法律制度」に傍点]に他ならない。無論法文の外見からみれば、法律は必ずしも所有関係を規定しているものばかりとは限らないが、法律制度の本質から言えば、それは与えられた一定の所有関係を合法化すための体系[#「合法化すための体系」に傍点]でしかない(法律学[#「法律学」に傍点]の領域)。――法律制度が併し一寸見ると露骨には経済的な所有関係を示さない理由は、法律が直接にこの関係を言い表わす代りに、政治制度[#「政治制度」に傍点]という関係を通過するからである。だがこの政治こそ、一定の与えられた生産関係・所有関係を、保持し強化するための、人間行為の実践形態の一つなのである。通常の意味での政治とは、人間乃至人間群が、それが住む一定の既成の社会秩序[#「社会秩序」に傍点]を維持するために、他の人間乃至人間群を、何かの物理的威力をたのんで、支配[#「支配」に傍点]することである。処がこの社会秩序と考えられるものこそその実質に於て、社会に於ける所有関係[#「所有関係」に傍点]に他ならない。生産という人間的実践が物的体系として定着されたものが所有関係[#「所有関係」に傍点]であり、政治というより高度の複雑な人間的実践が同じく定着されたものが社会秩序[#「社会秩序」に傍点]である。そして生産が社会に於ける生産であるという処から、それが必然的に政治という形態を取らねばならないのである。法律とはこういう政治制度のための観念的な拠り処に他ならない。――政治学[#「政治学」に傍点]はここに成立する。
 法律制度乃至政治制度は、社会の物質的地盤・下部構造である経済関係としての物質的生産諸関係の必然的な結論である。併し、法律制度乃至政治制度は、であるからと言って決して経済関係それ自身ではない。それは経済関係という肉体によって規定されて、初めて一定の形態を取ることが出来る処の、被覆に相当するものである。それは社会の下部構造によって制約されるという意味で、上部構造[#「上部構造」に傍点]と呼ばれて好い。
 法律や政治を社会の上部構造として、社会の下部構造から区別する処のものは、下部構造に相応する人間的実践――生産――乃至それが物的体系にまで定着されたもの――生産関係――が、特に優れて意識化[#「意識化」に傍点]されるという条件である。無論人間の実践は、それがどんな生産であろうが、どんな労働であろうが、意識なしには不可能だが、已にそれ自身意識的である処のこの実践が、更に、より高度の複雑した他種類の実践となる迄に、意識化すと、夫が政治的実践となり立法・司法の実践となるのである。で大事なことは、政治や法律が、単に意識的[#「的」に傍点]であるというばかりではなく、或るものが特に意識化[#「化」に傍点]されたものだということである。何かが意識化[#「化」に傍点]されるとは、即ち意識化という過程[#「過程」に傍点]が成り立つということは、まだ意識化されないものが意識化されること、即ちその意味で、意識的でないもの――物質的なもの――が意識的なものになるということである。物質的なものが意識の世界にまで転化するということである。――で法律や政治という上部構造は、かの物質的[#「物質的」に傍点]な下部構造に対して、意識[#「意識」に傍点]・観念[#「観念」に傍点]の性質を有つわ
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